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The Japan Welding Engineering Society

  

   

▼No.

Q01-02-14

 

▼小分類

溶接継手の応力計算

 

▼キーワード

裏当て金

 

 溶接技術教育シート
  (IIWシラバス)
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柱梁溶接接合部は地震時に引張,曲げ,せん断などの組合せ動荷重がかかり,特にT継手の溶接部は応力集中が最大となる箇所と考えられます。さらに,梁フランジの完全溶込み溶接には裏当て金を用いるのが慣用となっていますが,地震,風力など繰返し変動荷重が作用する場合,応力集中が起こることから裏当て金の除去,仕上げ整形が必要なのではないでしょうか。また,接合部の変形能力を確保するためには,例えば梁端部をいわゆるバチ形状にするなど,どのようなディテールを採用すればよいのでしょうか。

  

  

完全溶込み溶接の突合せ継手は,裏当て金を用いて片面から溶接を行う裏当て金タイプと裏当て金を用いずに両面から溶接を行う裏はつりタイプの2種類に大別される。一般的に裏当て金タイプは,柱梁溶接接合部における梁フランジの突合せ継手や十字継手およびボックス柱のかど継手などに適応されており,裏はつりタイプは,溶融亜鉛めっきを施す柱梁溶接接合部の梁フランジの突合せ継手や,フランジとウェブの突合せ継手などに適用されている。現状では,柱梁溶接接合部について施工性・経済性に優位である裏当て金タイプが多く採用されている。

裏当て金タイプを採用した場合,@裏当て金の組立溶接に起因して梁フランジ全体が破壊する場合,A現場溶接の下フランジ最外縁で溶込み不良などの溶接欠陥により初層部を起点として溶接部が破壊する場合とが具体的に考えられる。このため裏当て金を取り付ける場合の留意点としては,健全なルート部の溶込みを得るために,適切なルート間隔をとり,かつ裏当て金は母材と密着させることが重要である。また,原則として裏当て金にはSN材を使用し,その他の材料の場合はP,S,Cu,Cなどの化学成分を調べて溶接性に問題のないことを確認する必要がある。裏当て金の組立溶接(すみ肉溶接)は,引張力と同時にわずかの曲げ応力を受けるため,比較的簡単に破断してしまい,接合部全体の脆性破壊につながることにもなりかねない。このことから建築工事標準仕様書JASS6鉄骨工事1)では柱梁溶接接合部における裏当て金の組立溶接は,図1のように梁フランジの両端から10mm以内およびウェブフィレット部のR止まりまたはすみ肉溶接止端部から10mm以内の位置には行わず,エンドタブの位置あるいは梁フランジ幅1/4の位置に行わなければならないとしている。また,裏当て金が梁フランジの外側に取り付く現場溶接の下フランジでは,同じく組立溶接を適切に施すことは言うまでもないが,溶接欠陥に起因する場合の他にスカラップが存在する必然性からも接合部の破壊が危惧される。故に,適切なスカラップ形状を採用し,溶接施工を十分注意することが不可欠である。なお,もとより溶接後に裏当て金を残さないことを意図してセラミック製の裏当て金を用いる工法や溶接ロボットで上向き溶接をする工法などが提案されているが,現状では標準的な施工方法が確立されていない。

裏はつりタイプと裏当て金タイプについて,裏はつりタイプは,十分な塑性変形能力が得られるが,裏当て金タイプは,裏当て金を起因とした梁端部の早期破断が指摘されている。しかし,裏当て金タイプであっても,ノンスカラップ工法を適切なディテールで用いれば,裏当て金の潜在的なノッチの影響を軽減し,通常の裏はつりタイプと同等以上の十分な塑性変形能力が得られる1)。したがって,ノンスカラップ工法のような十分な塑性変形能力が期待できる施工ディテールを採用すれば,裏当て金を除去しなくても差し支えない。ここで問題となってくるのが,梁ウェブにスカラップ形式を用いた裏当て金タイプの柱梁溶接接合部である。この溶接施工は一般に工場溶接と現場溶接が考えられる。工場溶接は,良好な鋼材,溶材を使用し,適切な溶接条件で溶接することにより,裏当て金の影響を小さくすることが可能である。しかし,現場溶接で裏当て金を用いたスカラップ形式を採用した場合,下フランジにおいて内開先となり,裏当て金がフランジ外側に位置するため,接合部が曲げを受ける際,応力集中を受け裏当て金を起因とした早期破断が想定される。そこで,この問題の対策として水平ハンチタイプ,フランジ切欠きタイプ(ドッグボーンタイプ),フランジ孔空きタイプ等の接合部ディテールが提案されている2)

水平ハンチタイプは,梁端仕口部を拡幅して梁端部に生じる応力を低減させると同時に最大応力位置を梁母材に移行させ耐力を向上させる施工法である。しかし,施工の難しいハンチ先端部に歪が集中することで早期破断に至り,十分な塑性変形能力が得られないという問題点がある。また,質問にあるバチ形状タイプは,ハンチ部を溶接するのではなく,フランジを切り出加工して梁端部をバチ形状にすることで十分な塑性変形能力が得られるが,施工の手間や鋼材量の増加によるコスト面に問題がある。一方,フランジ切欠きタイプ,フランジ孔空きタイプは溶接部から梁フランジ母材方向に離れた位置に断面欠損を設けることにより,その部位を積極的に塑性変形させることで十分な塑性変形能力を得る方法である。しかし,フランジ切欠きタイプはフランジの一部をガス溶断し,溶断箇所をグラインダー加工する等適切な施工法を用いれば十分な塑性変形能力を得ることが可能であるが,施工の手間が問題である。フランジ孔空きタイプは,ドリル等でフランジに孔を空けるのみで,施工が容易かつ安価であり,接合部の十分な塑性変形能力を確保することが可能である3),4)。このようにフランジ孔空きタイプを用いることで裏当て金タイプでも十分な塑性変形能力が得られるが,使用鋼材の素材特性,経済性,どの程度の塑性変形能力を期待するかなど様々な因子を考慮した上で現場型柱梁溶接接合部の施工ディテールを選択する必要がある。


参考文献

1)(株)日本建築学会:建築工事標準仕様書JASS6鉄骨工事,pp.24−26

2)(株)日本建築学会:鉄骨工事技術指針―工場製作編,pp.450−455

3)服部和徳,中込忠男,市川祐一:孔空きフランジ工法を用いた現場型柱梁溶接接合部の変形能力に関する実験的研究 日本建築学会構造系論文集 第585号,155-161,2004

4)宮脇正尚,中込忠男,他:孔空きフランジ方式を用いた現場型柱梁溶接接合部の変形能力に関する研究 その2部材断面の違いが変形能力に与える影響,日本建築学会構造系論文集 第640号,300-303,2009.6

5)日本鋼構造協会:JSSCテクニカルレポートNo.42 鉄骨溶接接合部の標準ディテール,pp.51−71

6)(株)日本溶接協会 建設部会:改訂版 鉄骨溶接施工マニュアル,pp.109−111

〈中込 忠男 / 2012年改訂[全面改訂]〉