接合・溶接技術Q&A / Q01-03-14

Q圧力容器の溶接で,長手継手と周継手を交差させ,十字継手にしたいと考えています。これは許されますか。許されない場合はどのようにすれば良いのですか。

JIS B 8265「圧力容器の構造―一般事項」1) では隣接する長手継手間の距離について,次のように規定している。

「2個以上の胴を組み立てる場合,隣接する胴のそれぞれの長手継手の中心間距離は,母材の厚いほう呼び厚さの5倍以上離さなければならない。ただし,周継手との交点部から100mmの長さを,放射線透過試験(RT)を行い,これに合格したそれぞれの長手継手については,この限りではない」。

また例えば,高圧ガス保安協会の特定設備検査規則(第27条)2) においても以下のような同様な規定が設けられている。

「長手継手又は周継手の突合せ溶接部とそれに近接する長手継手又は周継手の突合せ溶接部との距離は,当該溶接部の母材の厚さ(厚さの異なる場合は,いずれか大なる厚さ)の5倍以上とすること。ただし,長手継手同士が近接する場合であって,当該溶接部同士を接続する周継手の交点からそれぞれ100mm以上の長さの部分について放射線透過試験を行い,これに合格した場合は,この限りではない」。

この規定は,隣接する長手溶接継手の残留応力の干渉によって,破壊,特に脆性破壊が発生・伝播する可能性を低めるためのものである。また近接する場合にRTが要求されるのは,破壊発生の起点となる溶接欠陥がないことを確認することを狙ったものである。

原則的には,脆性破壊に対する安全性確保の観点から,隣接する長手溶接継手の中心間距離として板厚の5倍以上を要求しており,やむを得ず板厚の5倍以上の中心間距離を確保できない場合の,救済措置として,ただし書きの文章があると判断される。そのため,十字継手の採用に関しては,エンドユ-ザとの十分な協議が必要となろう。

JIS B 8266にはこの規定がない。規定がない理由は明確ではないが,長手継手又は周継手の突合せ溶接部とそれに近接する長手継手又は周継手の突合せ溶接部との距離は,当該溶接部の母材の厚さ(厚さの異なる場合は,いずれか大なる厚さの5倍以上とすることは同じであろう。ただし,圧力の高い第1種圧力容器が対象であるため,脆性破壊の危険性がある容器に対しては,原則的に十字継手の採用は許容されていないと判断すべきであろう。

実施工例としては,円筒型自立式の石油タンク,LPGタンク,LNGタンクなどでも通常は側板を1段づつ,立継手をシフトして組み立てているが,側板の地上ブロック工法の場合,脆性破壊の心配のないAl合金製LNGタンクでは,地上ブロック同士の溶接で十字継手が採用された(図1参照)。

参考文献

1)JISB8265 「圧力容器の構造-一般事項」,2003

2)高圧ガス保安協会 「特定設備検査規則関係例示基準集(改定版),2009.3

〈片山 典彦 / 2012年改訂[全面改定]〉

このQ&Aの分類

ベッセル系構造物の継手設計

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長手継手と周継手の交差製品名:圧力容器施工法:アーク溶接主体

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