- 接合・溶接技術Q&A / Q01-04-13
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Qパイプの周方向の突合せ溶接で内面に大きな引張残留応力が生じるのはなぜですか。
平板の突合せ溶接やT型断面構造要素のすみ肉溶接などでは,溶接線方向残留応力は溶接部近傍で母材の降伏応力に匹敵するような大きな引張応力になる。しかし,溶接線直角方向残留応力は,外的拘束があって溶接線直角方向に自由に収縮できない場合を除いて,一般的には小さく問題になることは少ない。
図1に全周突合せ溶接されたパイプの残留応力分布の一例を示した。図1(a)は周方向残留応力の内面と外面での応力,(σθ)iと(σθ)0の軸方向での分布をパイプの降伏応力σY0で無次元化して示したものである。また,図1(b)は内外面の軸方向残留応力(σx)iと(σx)0の軸方向分布を同じく降伏応力σY0で無次元化したものである。図から分かるように,パイプの全周突合せ溶接の残留応力分布の特徴は,内面の溶接部近傍では,溶接線方向(周方向)応力,溶接線直角方向(軸方向)応力ともに大きな引張残留応力を発生することである。そのために,溶接されたパイプ内を海水,工業用水など塩化物を含む温水流体が流れると,この内面での大きな引張応力が原因の1つになって応力腐食割れなどを発生することがある。
全周溶接では溶接線方向の縦収縮や固有歪みのために溶接線付近の円周が短くなって,図2(a)のたわみ変形が発生する。このたわみ変形は溶接線から離れた部分によって拘束されているために図2(b)のように溶接部近傍では軸方向の外向きの曲げモーメントM(x)が発生するので溶接部近傍の内面には図1(b)のように引張残留応力が発生する。軸方向内力はゼロであるから外面には内面と逆符号の残留応力が発生する1,2)。また,この軸方向曲げモーメントが周方向曲げモーメントに影響を与えるために図1(a)のように溶接線近傍の外面の周方向残留応力は内面の応力より小さくなる。
参考文献
1)佐藤邦彦,豊田政男,吹田義一ほか:溶接学会誌,52巻2号,p.83,(1983)2)藤田譲,野本敏治,長谷川壽男:日本造船学会論文集,146号,p.383,(1979)
〈吹田 義一〉