接合・溶接技術Q&A / Q01-04-24

Q溶接残留応力の低減方法はありますか。また,その原理についても教えて下さい。

溶接による局部的な温度上昇に伴う熱膨張・収縮が,周囲の温度が上昇していない部分によって自由な変形が妨げられることにより,溶接部とその近傍に主に圧縮の塑性変形が生じ,これにより溶接完了後に残留応力が発生することになる。この残留応力の原因となる局部的な力学的不適合を説明するものとして,「固有ひずみ」1),などの概念が導入され,溶接変形や溶接残留応力の解析・予測に適用されてきた。

この残留応力の発生原因となっている固有ひずみについて理解するため,平板の突合せ溶接継手を例にとって図1に示すようにモデル化して考える。すなわち,継手部近傍の溶接による温度履歴によって熱膨張・収縮を生じる領域(着色領域;溶接部)と,その周囲の溶接による熱影響を受けない領域(母材部)に区分されると仮定し,それぞれの領域を独立の棒にモデル化して図に示したような端部において相互に結合された3本の棒モデルとして考える。溶接部Bは温度上昇過程で周辺部Aに自由な熱膨張を妨げられ拘束されるため,冷却後は図2(a)に示されるように溶接部Bは,切り離せば周辺部Aより短くなっている。実際にはこれが一体となっているため破線の部分まで引き延ばされ,溶接部Bは引張応力状態に,周囲Aは圧縮応力状態となる。この溶接部Bと周辺部Aのひずみの差が「固有ひずみ」と呼ばれるものであり,これを解消して図2(b)のような状態にすれば溶接残留応力は解消することができる。

固有ひずみを解消する具体的方法としては,全体の温度をクリープの生じる温度域まで上げてB材にクリープ変形を生じさせる,溶接後熱処理(PWHT)が最も一般的である。

しかし,このほかに機械的外力あるいは熱応力等を加えることにより,固有ひずみが丁度0となるようにB材のひずみを調整し図2(b)の状態にすれば,残留応力の存在しない状態に制御されることとなる。また,この時にB材にさらに大きな引張ひずみを与えれば(c)に示すように(a)と逆の符号の固有ひずみεl′が生じ,B材に圧縮,A材に引張りの残留応力が存在するように制御することも可能である。

図2のB材の部分,すなわち溶接部の残留応力制御時の応力―ひずみ挙動を図3に模式的に示す。溶接後の残留応力が降伏応力を超えて応力―ひずみ曲線上のA点にあるとする。この状態からクリープ変形によって固有ひずみが解消され応力が低下した状態がDである。また,Aから溶接部に引張方向のひずみを与えると,その大きさに応じて応力―ひずみ線上B,B,B,の状態となる。この後与えた引張ひずみを除荷すれば,ほぼAのひずみ状態まで戻るが,このとき弾性的に除荷されるため,除荷後はそれぞれC,C,C,の状態となり,与えた引張ひずみの大きさに応じて,降伏応力レベルの残留応力(A)が軽減された引張残留応力状態(C),ほぼ0(C),圧縮残留応力状態(C)となる。

なお,ここで述べたクリープ変形によらない残留応力低減方法の例としては,低温応力緩和法2),IHSI法3),両側加熱法4),内圧負荷法5,6)等がある。古くから適用されている溶接ビード表面への打撃によって塑性変形を与えるピーニング法もこの効果により溶接残留応力が軽減されるものである。

参考文献

1)藤本二男:固有ひずみの概念による溶接残留応力および溶接変形の解析法,溶接学会誌,Vol.39,No.4,pp.236-252,(1970)

2)渡辺正紀,峰久節治,山本通雄:小型溶接管に対する低温応力緩和法の適用,溶接学会誌,Vol.24,No.1,pp.35-41,(1955)

3)矢川元基ほか:原子炉一次系配管の高周波加熱による残留応力の改善(IHSI)に関する理論解析と実験,圧力技術,Vol.26,No.4,pp.292-300,(1984)

4)名山理介ほか:両側加熱法の効果とその支配パラメータ―管突合せ溶接継手の残留応力制御方法(第1報)―,溶接学会論文集,Vol.14,No.2,pp.398-405,(1996)

5)松岡一祥,直井保:パイプ円周溶接部の内圧による溶接残留応力除去効果,溶接学会誌,Vol.52,No.2,pp.97-103,(1983)

6)名山理介ほか:アイスプラグを利用した配管残留応力除去方法,溶接学会論文集,Vol.12,No.1,pp.132-136,(1994)

〈名山 理介〉

このQ&Aの分類

残留応力の緩和

このQ&Aのキーワード

残留応力の低減法

Q&Aカテゴリ一一覧