接合・溶接技術Q&A / Q02-02-02

Q鋼構造物の組立精度不良,溶接開先精度不良など寸法精度不良はひずみが多くなり,また,製造コスト高を招くことは理解できますが,強度面にも悪い影響を与えると聞きます。具体的にどのようなものか教えて下さい。

溶接構造物は,開先加工と組立ての両方の誤差が集積され,その上に溶接熱による変形の誤差も加わるので,無視できない大きい問題点である。

買い手と売り手の間で,この工作精度の狙いが異なるか,制度基準があいまいでトラブルの種となることが少なくない。

これは製品の機能上必要な工作精度が明確でなく,両者がそれぞれ主観により判断するためである。

工作精度が必要とされる強度から求められると客観的に又定量的な精度基準ができ,両者間のトラブルは解消される。

我が国の造船業界では,日本造船学会と日本溶接協会が協力して,1976年にJSQS(Japan Shipbuilding Quality Standards)と称する船体の工作精度基準を作った1)

一般に精度が悪くなると強度が下るところから,このJSQSでは理想的精度における強度を原点とし,それより10%劣化した精度以内を許容することにした。

これによって工作精度が,設計強度から求められ,客観性が生じる。この工作精度の基準が全国の造船所の工作側で無理なく受けいれられることを確認できた。このような例は世界でも珍しいものである。JSQSの中から二,三の例を紹介する。図1にみるように,十文字すみ肉溶接継手では,10%の強度低下は板厚(t)の1/2のくい違いに匹敵するので1/2・tまでを許容限界とし,日本の造船業界の工程能力を統計的に調べ,これを勘案して標準範囲として・tを定めている。

一般に工作精度不良は,このように強度低下をもたらすことが多い。

図2に示す窓合せ継手の目違いも同様に決められている。また防撓材のすみ肉溶接によって生じる,いわゆる“やせ馬”は船底外板の圧縮力による座屈の限界値から決められている。

工作精度のばらつき以外にも素材の品質を劣化させる工作として挙げられるものに,例えば,冷間加工,熱加工(線状加熱を含む),溶接の熱影響部などがじん性などを劣化させるが,設計技術者はそれを勘案した上で多少余裕のある材料の選択と強度設計をすることが建前である。万一工場の精度維持能力(工程能力)の実力が低すぎることが認められる場合は部材寸法を割増すことも必要である。工場はこのような設計の意図した精度を忠実に守ることは勿論のこと,コストダウンのために精度改善・向上努力することが肝要である。

参考文献

1)鋼船工作法委員会:日本鋼船工作法精度基準,(社)日本造船工業会,(1973)

2)藤田,萩原,藤野,橋本:目違いのある隅肉構造物の強度(その1),日本造船学会論文集130号

〈尾上 久浩 / 2012年改訂[一部修正]〉

このQ&Aの分類

組立

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鋼構造物の組立精度不良製品名:鋼構造物材質:鉄鋼施工法:アーク溶接

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