- 接合・溶接技術Q&A / Q02-02-03
-
QS35C,S45Cおよびレール材など中高炭素鋼材の機械部品を補修溶接したい。適切な溶接施工法を教えて下さい。
炭素量が0.3%以上の鋼材の溶接HAZ部にはマルテンサイトという硬くてもろい組織が生じ,溶接割れ(低温割れ)をひき起こす危険性がある。
そして,炭素量が多いほど,また溶接金属中の拡散性水素量が多いほどこの種の割れが生じやすい。
S35CとかS45Cは歯車とかシャフトによく用いられる中炭素鋼で,炭素量は0.35~0.45%と多く,上に述べたように要注意の鋼材である。また,レール材は炭素量が0.6~0.7%と高く,さらに割れやすい鋼材である。
このような鋼材の溶接には,低温割れを何としても防ぐ施工法を第一優先させるべきである。即ち予熱温度は高目に,例えばS35CとS45Cでは100~150℃の温度,レール材では150~250℃の温度の予熱が必要で,この予熱によって溶接時の急冷硬化を避けるのである。
もう1つの低温割れ防止策は,溶接金属中の拡散性水素量の少ない溶接材料と施工を選ぶことである。被覆アーク溶接なら低水素系の溶接棒を使用し,溶接棒の乾燥を十分にし,開先部に水分,錆または油脂など水素源となるものは溶接前にきれいに除去しておくことが大切である。CO2溶接法は比較的水素量の少ない溶接として推奨される。
低温割れは遅れ割れとも言われており,溶接が終わってからしばらく経って発生する特徴がある。溶接直後熱と言われている水素除去策は,溶接部を約350℃以上の温度に溶接後なるべく早期に後熱するもので,この方法で水素は一挙に放出され,低温割れが防止できる。
なお,さらに割れ防止に慎重を期したい場合,特にレール材の溶接では,図1のように開先面をあらかじめバタリング溶接するのがよい。そしてバタリング溶接は強度の低い(軟らかい)溶接材料を選び,下向き姿勢で高目の入熱の溶接をするのがよい。レールの溶接ではSUS309のようなオーステナイト系ステンレス溶接材料を用いるのも割れ防止に有効とされている。ただし,オーステナイトステンレス溶接金属の上にフェライト系溶接材料(軟鋼,HT材など)で累層溶接することは絶対避けねばならない。非常に割れやすいマルテンサイト系の低合金鋼の溶接金属になってしまうからである。
〈尾上 久浩 / 2012年改訂[字句修正]〉