接合・溶接技術Q&A / Q02-03-01

Q液体ヘリウム貯槽にはオーステナイト系ステンレス鋼が使用されますが,マルテンサイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼はなぜ使用されないのですか。

マルテンサイト系ステンレス鋼は焼入れ硬化性があり,水,大気およびある種の薬品を含む軽度の腐食条件の下での使用に適しており,特に高力,硬さ,耐摩耗性,耐浸食性を要求される用途に適している。12Cr鋼に炭素を加えたステンレス鋼は刃物用によく用いられる。オーステナイト領域内の温度に十分長時間加熱すれば,ステンレス鋼中の炭素が完全に組織中に固溶する。これを油中または空中で急冷すると硬くてもろいマルテンサイト組織になる。マルテンサイト系の溶接では,その溶接熱影響部が焼入れ硬化して硬いマルテンサイト組織になる。特に炭素含有量の多いものほど硬化がはなはだしく,残留応力が大となり,また,冷えた後に割れやすい。

フェライト系ステンレス鋼はクロムを多量に含み,焼入れしても硬化しない性質がある。しかし,溶接金属に隣接して融点近くまで加熱された領域は著しく粗粒となり,室温での延性もじん性もともに乏しくなる。このフェライト系は,オーステナイト系に比べると,耐食性,耐熱性はやや劣るが,しかし値段の安い割には高性能なので広く用いられている。高クロム鋼,特にCrが18%以上のものは一般に室温の切欠きじん性に乏しいので,厚板の溶接の場合には溶接部が特にもろくなって室温で割れやすい欠点がある。SUS405のように12Cr鋼にアルミニウムを少量添加して焼入れ硬化を防いだフェライト系ステンレス鋼もある。したがって,マルテンサイト系やフェライト系のステンレス鋼は,低温ぜい化があるため低温の貯槽には使用されない。

一方,オーステナイト系ステンレス鋼は一般のステンレス鋼製容器の製作にきわめて重要な鋼種で,ステンレス鋼の中で,最も耐食性と耐熱性と延性にすぐれ低温ぜい化がなく,また,溶接性が特に優秀である。

一般にステンレス鋼の機械的性質は,焼きなまし軟化状態において引張強さが約490~690MPa程度であり,また,0.2%の永久ひずみを生ずる応力を降伏応力としてほぼ196~294MPaである。また,伸びはオーステナイト系では50~60%で,フェライト系やマルテンサイト系では伸びはオーステナイト系の約半分である。オーステナイト系ステンレス鋼は液体空気の低温(マイナス194℃)においても切欠きじん性を失わないので,超低温の液体ヘリウムの貯槽にオーステナイト系ステンレス鋼が使用される。図は各種ステンレス鋼のシャルピー吸収エネルギーの温度依存性を示すが,Cr系ステンレス鋼は炭素鋼同様に遷移領域があり,低温でのじん性は低下する(図1参照)。

一方,オーステナイト系ステンレス鋼は遷移領域がなく,極低温でも室温と同程度の良好な衝撃特性を示す。したがって,オーステナイト系ステンレス鋼は,低温容器から高温用途まで,きわめて広範囲の温度領域で使用される。

参考文献

1)(社)溶接学会編:溶接・接合技術,産報出版(株),p.185

2)鈴木春義:改訂版最新溶接ハンドブック,(株)山海堂,p.518,p.530

〈村井 英夫 / 2012年改訂[SI単位]〉

このQ&Aの分類

ステンレス鋼

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液体ヘリウム貯層

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