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The Japan Welding Engineering Society

  

   

▼No.

Q05-02-49

 

▼小分類

ステンレス鋼

 

▼キーワード

σ相脆化

衝撃吸収エネルギーの低下

シグマ相の析出

 

 溶接技術教育シート
  (IIWシラバス)
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ステンレス鋼のσ相脆化とはどんな現象ですか。

  

  

オーステナイト系ステンレス鋼では,高温割れが発生しやすいため,これを防止する意味で実施工的には,室温組織において5〜10%のδフェライトを含むような溶接金属にする。ところが,このδフェライトは,700℃〜800℃の温度域で長時間保持されると分解し,σ相が析出する。このσ相が析出すると図11)に見られるようにわずか数%でも,衝撃値が著しく低下し,じん性が極めて低くなる(いわゆるσ相脆化)。また,二相ステンレス鋼では,溶接熱サイクルにより,σ相が析出してじん性を劣化することがある。したがって,二相ステンレス鋼の大入熱多層盛溶接などでは,溶接金属のσ相によるじん性劣化に注意を要する。 σ相はFeとCrの金属間化合物で,その中にMo,W,Si,Nb,Ti等の元素が固溶したものである。

σ相は一般に700℃〜900℃の温度範囲で析出するが,750℃付近でもっとも析出しやすい。σ相の析出を促進する元素としては,Mo,Si,V,Nb,Ti,Vがあり,逆に析出を抑制する元素にNi,NおよびC等がある。SUS304溶接金属においては,Mo>Si>V>Nbの順にσ相の析出を助長する。CuやAlはσ相の析出を遅らせる。Cr量が多くなるとσ相は析出しやすくなる。σ相の析出に対する合金元素の影響は,式(1)に示す等価Cr量(Eq.Cr)で評価されている2)

Eq.Cr=Cr+0.31Mn+1.76Mo+0.97W+2.02V
+1.58Si+2.44Ti+1.70Nb+1.22Ta
−0.226Ni−0.177Co(1)

図2に25Cr-13Ni-1Mo鋼溶接金属の衝撃値に及ぼすσ相析出の影響を示す。800℃付近の温度ではδフェライト内に極めて短時間からσ相が析出し,衝撃値が低下する。これは,δフェライト内において,σ相の析出を促進するCr,Mo,Si,V,Nb,Ti,などの元素が濃化していることから,母材に比べて,σ相の析出が早くなるためである。特に,AFモードとなる場合,FAモードの場合よりフェライト中のCrおよびMo等の元素の濃化が助長されるため,σ相の析出が加速される。従って,式(1)によるσ相の析出予測もσ相の析出サイトとなる局所的な領域の等価Cr量で考える必要がある。

二相ステンレス鋼はCr量が多いうえ,Moも添加されているため,σ相が析出しやすい。また図33)は,二相ステンレス鋼の母材と溶接部におけるσ相の析出状況を比較したものである。母材に比べて溶接金属はσ相の析出が速いことがわかる。さらに,二相ステンレス鋼では溶接熱影響部においても溶接過程でσ相が析出する場合がある。特に,材料が冷間加工されている場合,σ相の析出が助長される。冷間加工によりσ相が析出しやすくなるのは,熱処理温度の低温側では再結晶粒と冷間加工域の界面でσ相の核生成が促進されるためであり,高温側では,微細な再結晶粒が多数形成され,粒界面積が増加する結果,核生成が容易になるためである。


参考文献

1)前原泰裕ほか:鉄と鋼,Vol.67,No.3,p.577,(1981)

2)F.C.Hull:Weld.J.,52(1973),104s

3)T.Kuroda,Y.Kikuchi:Proceedings of International Conference of JOM−8,Denmark,pp.376−381,(1997)

〈西本 和俊,篠崎 賢二,神谷 修 / 2012年改訂[設問統合]〉