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The Japan Welding Engineering Society

  

   

▼No.

Q05-02-69

 

▼小分類

ステンレス鋼

 

▼キーワード

TIG,MIG溶接

施工法:TIG,MIG,抵抗溶接

 

 溶接技術教育シート
  (IIWシラバス)
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ステンレス鋼と炭素鋼をTIGまたはMIG溶接する場合の注意点を教えて下さい。また,ステンレス鋼と炭素鋼の抵抗溶接は可能でしょうか。

  

  

ステンレス鋼と炭素鋼をTIGまたはMIG溶接する場合,組成的に全く異なる材料の溶接であることから,健全な溶接継手を得るためには,母材の希釈を考慮して適切な溶接材料を選択するとともに,溶込み率を適切な範囲で制御することが重要である。これには,図1に示すシェフラー組織図の活用が有効である。すなわち,図1は各組成での溶接金属中の相バランスを示しており,Ni当量が大きい場合は高温割れが発生しやすく,小さい場合は靱性が乏しくなる。また,Cr当量が大きい場合は金属間化合物が析出しやすく脆くなり,小さい場合は低温割れが発生しやすくなることを表している。したがって,図1中のハッチング領域が概ね健全な溶接金属を形成される安全組成域と定義される。したがって,異なる組成の材料を溶接する場合は,溶接金属の組成が安全組成域に入るように注意する必要がある。

例えば,SUS410(フェライト系ステンレス鋼)とSS400(炭素鋼)を溶接する場合,図1に示す計算式により,溶接金属組成(Z)が図中のハッチング領域(安全域)の組成になるように,溶接材料と溶込み率を選択する必要がある。この場合,309系のオーステナイト系ステンレス鋼溶接材料(Y)を用いることにより,約10〜35%の溶込み率で安全な溶接金属を得ることができる。これより溶込み率が大きくなると,溶接金属中のCr,Ni量の低下が大きく,C量も増加するので,δフェライト量が減少して高温割れが発生したり,マルテンサイトが析出して脆くなり,低温割れが発生する危険性がある。また,オーステナイト系ステンレス鋼と炭素鋼との異材溶接においても,図1のシェフラー組織図により適切な溶接材料と溶込み率が選択できる。図2(a)はSUS304とSS400との場合であるが,この場合も309系の溶接材料が適用され,ステンレス鋼と炭素鋼との異材溶接では,特別な例を除いて,通常,309系溶接材料を用いれば問題はない。なお,オーステナイト系ステンレス鋼と炭素鋼の異材継手では,両者の熱膨張係数の差が大きいため,繰り返し熱サイクルを受ける環境では熱疲労の危険性があるので,中間的な熱膨張係数を有するNi基合金の溶接材料の適用が好ましい。

次に施工的には,炭素鋼の希釈をできるだけ少なくし,適正な溶込み率を確保することが重要である。しかしながら,炭素鋼はステンレス鋼に比較し,電気抵抗は小さいためアーク電流は普通鋼側に流れやすい。また,熱伝導率が大きいため,冷却速度が速い。さらに,オーステナイト系ステンレス鋼との組合せでは,アークの磁気吹きが起こるなどの理由から,炭素鋼側にアークが集中しやすく,炭素鋼側の溶込みが大きくなる傾向があるので,溶接トーチの狙い位置の設定や溶込みの制御が重要となってくる。特に,TIGに比べてMIG溶接では深溶込みになるため,注意が必要である。また,溶込み制御が困難な場合は,図2(b)のように炭素鋼側にバタリング溶接を施してから本溶接を行う方法もある。

ステンレス鋼と炭素鋼の抵抗溶接に関しては,溶接材料の使用が不可能であるため金属組織的な問題は残るが,溶融する領域が小さいなどの理由で適用は可能である。この場合,ステンレス鋼は炭素鋼に比べ,電気抵抗が大きく,熱伝導率が小さいため,抵抗溶接では,発熱・蓄熱しやすい。さらに,高温強度も高いため,ステンレス鋼同士の抵抗溶接では炭素鋼同士と比較し,溶接電流は小さく,加圧力は高く設定される。ただし,ステンレス鋼と炭素鋼の組合せでは,通常,炭素鋼の溶接条件に設定される。


〈井上 裕滋 / 2012年改訂[加筆]〉