- 接合・溶接技術Q&A / Q06-03-01
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Q低合金の溶接に際して,溶接材料の選択および溶接施工上留意すべき点について教えて下さい。
ここでいう低合金鋼とは,合金元素の合計が約5%以下で高張力鋼,耐候性鋼,耐火鋼,低温用鋼,クロムモリブデン鋼,モリブデン鋼を含めたものである。
これらの鋼および溶接材料には,目的に応じてC,Mn,Mo,Cr,Ni,V,Nb,Bなどの元素を添加しており,しかも溶接はそもそも急加熱-急冷であるので鋼材や溶接金属の溶接熱影響部(HAZ)は硬化しやすく,これに伴って切欠き靱性や破壊靱性の劣化,延性低下などが生じ,溶接割れや使用中の応力腐食割れ発生の原因となる。
これらの鋼板の溶接においては,要求性能や合金成分がJISやAWSに規格化されており,それぞれに合致する溶接材料を選択することが必要である。
溶接施工では,欠陥のない健全で使用目的を満足できる継手性能の溶接部を得るように,溶接材料,溶接方法や溶接条件を設定する。
溶接においては,割れやスラグ巻込みなどの欠陥防止が重要である。割れには,凝固割れ,液化割れ,延性低下割れなどの高温割れと水素に起因する低温割れがある。
凝固割れの1つにサブマージアーク溶接や炭酸ガスシールドアーク溶接の,高電流で高速度溶接で生じやすい梨の実型割れがあり,この防止には電圧の増加,電流および溶接速度の減少,開先角度を大きくして,溶込み/深さビード幅比を小さくし1.2以下にする。また,狭開先溶接では2パスで一層溶接仕上げとなるように振分け溶接ができるような開先,溶接条件を設定する。
低合金高の溶接で低温割れ(遅れ割れ)防止が特に重要である。
低温割れは,溶接材料,大気,開先の汚れなどから溶接中に溶接金属中に持ち込まれた水素が,溶接金属の冷却過程で過飽和となり,拡散して熱影響部のような硬い組織部に集積して,溶接数日後に割れが生じる。これには,ルート割れ,ビード下割れや溶接金属の割れがある。
これを防止するためには,できるだけ拡散性水素量の少ない溶接材料の選択,炭素当量の低い鋼材の選択,拘束度や応力集中が低くなる継手設計を選択し,溶接入熱を材質が保てる範囲でできるだけ高くし,熱影響部の硬さを低く抑え,予熱・パス間温度を高くし,また,直後熱を実施して溶接部の水素を迅速に外部に逃がすことが重要である。
割れ防止には,溶接による熱影響部(HAZ)の最高硬さを低くすることが必要で,そのためには溶接に先立ちその硬さを予め予測し,ある硬さ以下に抑えるように予熱温度,パス間温度,溶接入熱などの施工条件を決めることが肝要である。
HAZの最高硬さは,鋼材の化学成分から計算される炭素当量(Ceq)と溶接後の800℃から500℃までの冷却時間(T8/5)あるいは540℃における冷却速度によって予測される。
Ceq(JIS,WES)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5
+Mo/4+V/14
図1は,TMCP鋼を含めた各種HT490級鋼の800℃から500℃までの冷却時間(T8/5)とHAZの最高硬さの関係で,T8/5が小さいほど,またCが多いほどHAZの最高硬さが大きくなり,またTMCP鋼は他の鋼板に比し硬化が小さいことが判る。したがって,鋼材が決まり,Ceqが解れば,HAZの最高硬さを抑えるためにはT8/5を大きくする条件を選択する。
図2は,斜めY形溶接割れ試験におけるHT590級鋼におけるルート割れ防止のための臨界予熱温度と,拡散性水素量(グリセリン法)との関係である。拡散性水素量の減少とともに臨界予熱温度は低下する。
さらに,実際に低温割れを防止するために予熱温度を決定する方法としては,低温割れの要因を組み合わせ,鋼材の成分,板厚,溶接材料の拡散性水素量から求める考え方がWES 3002に規定されている。
まず,溶接低温割れ感受性組成PCMを次式で求める。この場合Cは0.07~0.22%の範囲である。
PCM=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60+Cr/20
+Mo/15+V/10+B(%)
次に,継手に作用する応力は引張拘束度,板厚,ルート部の応力集中係数が増すと増加するが,板厚と直線関係にあると仮定する。これに拡散性水素量の項を加えて,溶接低温割れ感受性指数PCを定め,初層溶接のルート割れを防止する予熱温度(T0)を関係式から求める。
PC=PCM+t/600+H/60
T0(%)=1440PC-396
ここで,Hはグリセリン法で測定した拡散性水素量(ml/100g),tは板厚(mm)である。ガスクロ法で測定した拡散性水素量(ml/100g)は次式でグリセリン法による値に換算する。
H(グリセリン)=0.787H(ガスクロ)-1.72
図3は,PC値と割れ防止に必要な予熱温度の関係であるが,よい相関を示している。PCMはWES-135にも定められており,このなかでHT60~HT100調質高調力のPCM許容値と斜めY形ルート割れ防止臨界温度の規定値を表1に示す。
また,高張力鋼の予熱およびパス間温度の例を表2,低合金鋼の予熱およびパス間温度を表3に示す。
また,溶接割れ感受性を評価する方法がJISに規定されている。図4は代表的な自拘束形割れ試験方法で,JIS Z 3158には斜めY形溶接割れ試験,JIS Z 3157にはU形溶接割れ試験法が規定されている。これにより,初層における低温割れ(ルート割れ)を防止するための予熱温度,拡散性水素量の上限値を決める。
図5は,1パスと多パス溶接時のルート割れおよび止端割れやビード割れ防止臨界予熱温度をCeq(JIS,WES)に関して比較した例である。Ceqが小さい場合は,1パスよりも多パスの臨界予熱温度はかなり低い。Ceqが0.40程度のHT490級鋼を溶接する場合は,Y開先拘束割れによる臨界予熱温度より75K(75℃)程度低い値を採用している。しかし,Ceqが高い場合は差が縮まり,実質下げることはできない。
前述のように予熱温度を決定するが,使用する溶接材料はできるだけ拡散性水素量の発生が少ない溶接材料を選択すべきである。表4に数種の高張力鋼用溶接材料溶接金属の拡散性水素量(ガスクロ法)を示す。
被覆アーク溶接棒とサブマージアーク溶接用フラックスは,使用前にメーカの指定条件で充分乾燥する。再乾燥では乾燥温度の影響が大きく,高すぎる温度では被覆剤やボンドフラックス中のガス成分の分解や脱酸成分の酸化によって溶接作業性や機械的性能が劣化し,一方,低すぎる温度での乾燥は吸湿水分が充分除去できない。また,再乾燥の許容繰返し回数は明確ではないが,被覆アーク溶接棒では被覆欠けによる作業性異状や異相生成による性能劣化が生じる原因となるので,目安として3回程度を目途とする。サブマージアーク溶接用ボンドフラックスでは,紛化による作業性異状や性能劣化が生じる原因となるので,被覆アーク溶接棒と同様に3回程度を限度に管理することが必要である。乾燥条件の一例を表5および表6に示す。
また,再乾燥しても,被覆アーク溶接棒とサブマージアーク溶接用フラックスは大気中に放置すると吸湿して拡散性水素量を増加させるので,乾燥後速やかに使用するか,使用まで100℃程度以上に保持できる保管容器に貯蔵する。しかし,長時間に亘る保管は,被覆剤やボンドフラックスでは含まれる水ガラスなどが変質するので避ける。溶融フラックスはボンドフラックスより吸湿し難いが,少ない吸湿量で拡散性水素量が大きく増加するので,防質管理および乾燥管理はボンドフラックス同様に必要である。
サブマージアーク溶接用フラックスは,溶接後未溶融フラックスは回収されて繰り返し使用されるが,溶融フラックスより紛化しやすいボンドフラックスでも,例えば表7に示すように数回程度の繰返し使用では通常変化しない。しかし,回収方法によってはフラックスの紛化や粒度分布が変化する場合があるので,適宜新しいフラックスを追加しながら使用することが望ましい。
また,再乾燥した溶接材料を使用しても,湿度の高い(水蒸気分圧が高い)大気中での溶接では拡散性水素量が増加する。図6は被覆アーク溶接棒の溶接において大気中の水蒸気分圧と拡散性水素量の関係を示す。これから,水蒸気分圧の高い大気中での溶接は,拡散性水素量が増加することとなるので十分注意することが必要であるが,できれば避けることが望ましい。
ガスシールド溶接は,露点の低いシールドガスを使用するので,拡散性水素は低くなるが,突出し長を長くしたり,アーク電圧を高くすると拡散性水素量が増加するので注意が必要である。
また,開先の水分,錆,油汚れ,プライマーやワイヤの錆はすべての拡散性水素量増加の原因になるので,溶接前に除去することが必要である。また,開先をガスバーナで予熱する場合はかえって水分を持ち込むことがあるので十分注意する。
計算によって求められた予熱・パス間温度が高過ぎて施工が困難な場合は,溶接直後熱処理を採用することによりある程度,予熱・パス間温度を下げることができる。直後熱処理は本溶接終了後,溶接物を室温に下げることなく直ちに実施することが必要である。溶接部からの拡散性水素の脱水素を目的にするもので,一応の目安として150℃から200℃で板厚/25.4mm×時間以上が適切である7)。
高張力鋼の溶接では溶接入熱が大きくなったり,板厚が薄くなったりするとT8/5が遅くなりボンド部の靱性が劣化しやすいので,例えば表8にHT780鋼の板厚別溶接入熱制限例,表9にHT570鋼の各板厚別の最大溶接入熱量および最高パス間温度の制限例を示す。図7は,HT590鋼とHT780鋼の溶接において溶接入熱と溶接ボンド部の破面遷移温度(vTs)の関係を示す。入熱が大きくなるとはvTsは高くなり靱性が劣化することが判る。
突合せ溶接の延性強度は,継手引張強度と母材の引張強度との比である継手効率で表される。構造用鋼の溶接継手では,溶接金属および熱影響部の強度は母材部よりも高く,引張試験では破断は通常母材部で生じ,延性強度は100%以上とみなすことができる。しかし,溶接前に冷間加工を受けた鋼材では,溶接熱影響部が再結晶によって軟化し,再結晶部で破断する場合があり,継手効率が100%以下となる。このような軟化部を含む軟質継手は,軟化部の強度は低下しているものの塑性変形が拘束されるため,軟化域の寸法が板幅,板厚に比較して相対的に狭い場合は,強度低下に至らないことが研究,実証されている12,13)。板幅と軟化域の比が充分大きい大型構造物では,軟質継手が有効となるので水圧鉄管14)や造船用TMCP鋼15)において幅広試験片で検証がなされている。この軟質継手は,HAZが軟化するので割れに対して有効である。
















参考文献
1)N.Yurioka:Materials & Design,6-4,p.154,(1985)2)百合岡ほか:溶接学会誌,Vol.48,No.12,p.1027,(1979)
3)(社)日本溶接協会 溶接棒部会編:フラックス入りワイヤの実践,p.94
4)(社)溶接学会編:溶接技術の基礎,p.164
5)(社)日本溶接協会 溶接棒部会編:マグ・ミグ溶接の欠陥と防止対策,p.121
6)矢竹ほか:溶接学会誌,Vol.49,No.7,p.484,(1980)
7)新日本製鐵(株):高張力鋼の溶接について(カタログ)
8)(社)日本溶接協会編:溶接の研究,No.33,p.37
9)(社)日本溶接協会編:溶接の研究,No.33,p.55
10)新日本製鐵(株):カタログNo.EXE332,1-69,(1973)
11)新日本製鐵(株):新日鉄の海洋構造物用鋼板(カタログ),(1973)
12)佐藤,豊田:溶接学会誌,Vol.40,No.9,p.885,(1971)
13)佐藤ほか:日本造船学会論文集,132,p.381,(1972)
14)佐藤:溶接学会誌,Vol.47,No.10,p.697,(1978)
15)日本造船研究会:研究報告100号,(1985)
〈元松 隆一〉