- 接合・溶接技術Q&A / Q06-03-04
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Q予熱低減型鋼(Cu析出硬化鋼,低Ceq鋼)について溶接材料選定基準および溶接時の留意点について教えて下さい。
Cuは焼入れ性を上げないで,焼戻し時に析出して強度を上げる元素であり,これを利用した鋼板として,INCO社のASTM A710鋼(HT590級)鋼がよく知られている。我が国では,TMCP技術と組み合わせて,焼入れ性が高く予熱温度が高い溶接性の悪いHT690鋼以上の鋼板への適用が検討されている。HT780鋼では,従来鋼でHAZ硬化の原因であった焼入れ性の高いC,B,Ni,Cr,Moなどの元素を低減して,焼入れ性の低いCuをV,Nbと複合添加し強度を確保し,予熱温度が50℃の溶接性のよい鋼板が実用化された。
表1は新日鐵で開発したHT780鋼の成分例である。図1は,斜めY形割れ試験結果でCu析出鋼は従来鋼より予熱温度が低く,50℃で割れが停止している。図2は,従来鋼も含めたHT780鋼の斜めY形割れ試験の割れ停止温度とHAZ最高硬さの関係を示すが,最高硬さが350以下であれば予熱温度が50℃以下で割れが停止することがわかる。図3は,熱影響部の硬さ分布であるが,熱影響部は硬化せず,最高硬さHvは300程度以下で従来鋼350程度に比べ低いことがわかる。図4は,斜めY形割れ試験における割れ停止予熱温度とPCMの関係であるが,従来鋼は相関性がよく直線上にあるが,Cu析出鋼は低予熱側にシフトしている。以上のように,鋼板としては予熱温度が50℃以下割れで防止は可能である。
HT690鋼,HT780鋼ともCu析出鋼専用の溶接材料は市販されていない。従来鋼板用を併用している。溶接材料においては,溶接過程で溶接金属に析出硬化が期待できないので,現状ではCeqの大幅な低減はできない。したがって,改良としては,溶接金属の低温割れ防止予熱温度を下げるために拡散性水素量の一層の低減,強度の適正化などから改良し従来鋼と併用している。HT780鋼用の溶接材料は,被覆アーク溶接棒およびサブマージアーク溶接の溶接金属は,それぞれJIS Z 3212のD8016,JIS Z 3183のS804-H4に規定されている。ガスシールドアークソリッドワイヤはJIS化されていないが,溶接材料は市販されている。しかし,ガスシールドアークフラックス入りワイヤは,国内ではまだ市販されていない。
HT780鋼の割れ防止のため予熱温度は50℃以下であるが,サブマージアーク溶接など溶着量の多い溶接では鋼板よりやや高いのが現状である。実施工に当たっては,低温割れ防止のための管理は従来鋼と同様に,適正予熱温度の採用,予熱温度以上のパス間温度の確保,開先の水分等を予め十分に除去することが必要である。予熱温度の設定に当たっては,窓型拘束割れ試験などで実際に使用する鋼板と溶接材料,施工条件の組合せで確認しながら決めることが望ましい。また,多層溶接において中途で溶接を中断し,試験体温度がパス間以下になる場合は,150~200℃の直後熱を行い,溶接を再開する場合はパス間温度まで予熱することが必要である。





参考文献
1)岡村ら:新日鐵技報,第356号,pp.66-67,(1995)〈元松 隆一〉