- 接合・溶接技術Q&A / Q07-01-11
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Q風の比較的強い戸外で,軟鋼や高張力鋼の半自動アーク溶接を行う場合,どのような方法があるでしょうか。また,その時の注意事項等についても教えて下さい。
軟鋼や高張力鋼の半自動溶接を行う場合,溶接法は炭酸ガスアーク溶接法およびミグ(メタルイナートガス)溶接法,マグ(メタルアクティブガス)溶接法などのガスシールド溶接法と比較的風の強い戸外での溶接に適したセルフシールドアーク溶接法がある。
シールドガスでアーク周辺を被包しないで溶接すると,溶接金属は大気中の酸素,窒素を多量に吸収し,溶接金属に気孔が残存する。また,窒素の悪影響で靱性が低下する。そのためガスシールドアーク溶接法では,大気を遮断するため炭酸ガスやアルゴンガスおよびこれらの混合ガスを用いる。シールドガス流量は20~30l/min程度に調整して溶接するが,溶接部近傍の風速が1.2m/sec程度であっても気孔が発生する恐れがあるので,特に戸外で溶接する場合には十分な防風対策が必要である。
一方,図1に示すセルフシールドアーク溶接法は,シールドガスを供給しないで行うアーク溶接法であることからノンガス溶接法とも呼ばれる。溶接材料はフラックス入りワイヤが使用される。
溶接金属は,溶接ワイヤに充填されたフラックス中のアルミニウムなどの強脱酸剤や窒化物形成元素およびフラックス中の各種成分からの発生ガスと溶接ビード上に形成されたスラグにより覆われて大気から保護される。この溶接法は,シールドガスでアークおよび溶接金属を被包する必要がないので,風の影響が比較的軽微であるが溶接ヒュームが多量に発生するため,屋外作業での使用に適している。最近では,8~10m/sec程度の風速でも健全な溶接が行える溶接棒が開発されている。適用例としては,ビル鉄骨や橋梁,鋼管杭の溶接などで導入されている。また,施工に際しては以下の項目に注意する必要がある。
① 溶接電流は,表1および図2に示すようにワイヤ径,溶接姿勢,継手種類により適正値に調整する。
② セルフシールドアーク溶接では,一般に溶込みがあまり深くないので,突合せ溶接用開先はほぼ被覆アーク溶接と同様なものを用いる。ルート間隔は2mm~3mmとし,ルート面は1mm~3mmに調整する。
③セルフシールドアーク溶接では,ワイヤの突き出し長さの管理が重要で,短い場合はピットが発生しやすく,また,長い場合はワイヤの先端の振れによって溶接線から狙い位置がずれて良好な溶接ができないので,30~50mm程度に維持する必要がある。
④ セルフシールドアーク溶接ワイヤの充填フラックスの主成分は弗化物系であり,溶接中に多量のヒュームが発生するので,溶接ヒュームを吸引しないよう作業すること,屋内作業や狭隘な場所での作業では十分な換気や保護マスクなどの着用にも心がけることが重要である。
⑤ セルフシールドアーク溶接用ワイヤにはフラックスが充填されているため,吸湿した場合はピットが発生するので,200℃~350℃で1~2時間程度の乾燥が必要である。したがって,溶接ワイヤの保管には十分な注意が必要である。
⑥ アーク電圧が高すぎるとビード表面にピット,溶接金属中に気孔が発生する。逆にアーク電圧が低すぎるとスパッタが多発し,ビード形状は凸形となる。図3に示すように極端にアーク電圧を下げるとスティッキングを生じて溶接が不可能になる。
⑦ 立向姿勢では溶接金属の垂れ下がりを防ぐため,一般に下向姿勢よりも小さい電流値を使用し,ウィービングを行うことでアンダカットの防止と平滑なビード形状が得られる。
⑧ 横向姿勢では融合不良が発生しやすいので,ワイヤ狙い位置,ワイヤ角度,ウィービング速度などに注意する。
⑨ ウィービングはワイヤ径の4倍以下が望ましい。
⑩ 被覆アーク溶接ビードの上にセルフシールドアーク溶接を行う場合,セルフシールドアーク溶接により形成されたスラグの剥離性が劣化することが多いので低水素系の溶接棒を用いることが望ましい。
⑪ セルフシールドアーク溶接ビード上に被覆アーク溶接を行う場合,低水素系以外の溶接棒ではピットが発生することがある。
⑫ 溶接ワイヤ径に合わせて適切な溶接電源を選定する。2mm以下の細径ワイヤを使用する場合は,一般に直流の溶接電源を用いる。2.4mm以上の太径の溶接ワイヤを用いる場合には,交流の溶接電源が用いられている。
⑬ ワイヤ送給装置はセルフシールドアーク溶接用を用い,溶接ワイヤには過度の加圧を加えない。
⑭ ワイヤの送給を良好にするため,送給ギヤの調整,コンジットチューブの整備,チップの交換などの注意が必要である。
参考文献
1)新版接合技術総覧編集委員会編:新版接合技術総覧,(株)産業技術サービスセンター,p.143,p.149,(1994)〈山田 実 / 2012年改訂[字句修正]〉