接合・溶接技術Q&A / Q07-01-17

Qマランゴニ対流というのはどのような現象のことなのでしょうか。また,溶接結果にどのような影響をおよぼすのでしょうか。

液体の表面張力の局所的な差に起因した自由表面移動の現象をマランゴニ効果と呼び,その自由表面移動によって生じるせん断力をマランゴニ力といいます。そして,このマランゴニ力によって駆動される液体の対流現象がマランゴニ対流と呼ばれ,溶込み深さと密接に関係します。

溶融池金属に含まれる酸素や硫黄などの不純物濃度が低い場合,表面張力は温度が高くなるほど低下します。その結果,図1.(a)に示すように,温度が高い溶融池中央ら温度が低い溶融池の周辺部へ向かう溶融金属の流れが形成され,溶込みは幅が広く浅いものとなります。反対に,溶融池金属に含まれる不純物濃度が高い場合は,温度が高くなるほど表面張力が増加し,図1.(b)のように,溶融池周辺部からの中央部に向かう溶融金属の流れが形成され,幅が狭く深い溶込みとなります。

すなわち溶融池金属の不純物濃度によって,表面張力勾配に起因したマランゴニ力を駆動力とした溶融池内の対流方向が支配され,対流方向が図1.(a)のような外向きの流れから図1.(b)のような内向きの流れに反転すると,アークからの入熱が溶融池の深さ方向へ効率よく輸送され,幅が狭く深い溶込みが得られるようになります。その一例を示すと図2.のようであり,酸素および硫黄の含有量が増大すると溶込み深さが増加します。

このような現象を利用して深溶込み溶接を実現する手法は“A-TIG溶接”または“アクティブ・ティグ溶接”と呼ばれ,近年大きな注目を集めています。酸化物を主体とした粉末状の活性フラックス(activating flux)をメチルエチルケトンやアセトンなどの揮発性溶剤で溶き,その溶液を母材表面に刷毛などで塗布してティグ溶接を行うと,酸化物の解離によって溶融池へ供給された適度な酸素が溶融池の表面張力を変化させ,その表面張力勾配に起因したマランゴニ力を駆動力とした溶融池内の対流方向が内向きの流れとなって,図3.に示すように,通常のティグ溶接の約2~3倍の溶込み深さが得られます。

A-TIG(アクティブ・ティグ)溶接に用いられる活性フラックスは,1960年代に旧ソ連(現ウクライナ)のパトン溶接研究所(Paton WeldingInstitute)によって提案されたものですが,現在ではパトン溶接研究所のほか,米国や日本などでも製造されており,容易に入手できるフラックスがいくつか市販されています。市販フラックスの化学成分はメーカーや対象材料によって多少異なるようですが,基本的にはTiO2,SiOS2,Cr23などの酸化物が主体となっています。また市販フラックスの中には,フラックスの母材表面への塗布を容易にするために,スプレー式としたタイプもあます。

なおアクティブ・ティグ溶接には,“ビード表面に付着した強固なスラグをグラインダーなどで除去しなければならない”,“溶接金属中の酸素量が若干増加する”,“溶接姿勢,開先形状あるいは母材の化学組成などによって深溶込み効果は異なる”などの短所もあるため,適用に当たってはこれらの点についての配慮が必要です。

〈三田 常夫 / 2012年新規〉

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