- 接合・溶接技術Q&A / Q07-04-10
-
Qティグ溶接の溶込み深さを決定する要因としては,どのようなものがありますか。また,溶込み確保する方法にはどのようなものがあるか教えて下さい。
ティグ溶接の溶込み深さを決定する要因を図1に模式的に示す。溶込みを決定する要因として,熱的要素としては,ジュール熱,プラズマ気流やその熱放射,熱伝導がある。また,物理的な力としては電磁力(J×B)とガス流によるアーク圧力,表面張力等による溶融池内の溶融金属の流れがある。これらの要素は複雑に絡み合い溶込みを支配する。溶込みを確保する方法としては,溶接電流に敵した電極径,先端角度の電極を用い,材料に適した極性,電源を選択し,適切な溶接速度で溶接することが重要である。溶接条件で,溶込みが変化するものを以下に例示する。
(1) シールドガスの種類
Heの方がArより電位傾度が高いため,アーク電圧が高くなり母材への入熱が増える。溶込みを増すために,Ar,He混合ガスを用いることもある。また,Arに数%の水素が添加されると,水素の解離による熱的ピンチ効果によって,アークが絞られるため,溶込みが深くなる。これは,オーステナイト系ステンレス鋼の溶接に用いられる方法である。
(2) アーク長と単位溶接長当たりの入熱―アーク電圧(アーク長),溶接電流,溶接速度
アーク電圧が低くなるとアーク長が短くなるためアークが集中し,アーク圧力によってアーク直下の溶融池の溶融金属が押しのけられ,アークの熱が直接母材に入るため,溶込みが深くなる。
また,単位溶接長さ当たりの入熱量Qは,
Q=(アーク電圧)×(溶接電流)/(溶接速度)
であるので,アーク電圧が一定ならば,溶接電流が増加したり,溶接速度が減少したりするとQが増加するので,溶込みは深くなる。
(3) 溶接電流波形
ティグ溶接には,薄板や異種金属等の溶接において,母材の溶融池を制御して良好な溶接ができるパルスティグ溶接法がある。このパルス条件であるピーク電流,パルス周波数等によって溶込みが変化する。
(4) 母材の微量元素
Ⅵ族元素(酸素や硫黄),ハロゲン元素の母材への添加は溶込みを深くする。これは軟鋼やステンレス鋼の溶接において顕著に見られる現象であり,溶融池内の対流のパターンが変化することで,溶込み深さが変化すると考えられている。溶融池内の溶融金属の流れを模式的に示したものを図2に示す。また,A-TIGフラックスと呼ばれるものがPaton研究所で開発されており2),各種金属酸化物粉末が混合されたフラツクスを,スプレーで母材表面に塗布してから溶接を行うと深い溶込みが得られる。
(5) 電極形状と材質,電極極性
電極先端角が鋭いほど,極点がトーチ側に登ってくるため,アークが広がり溶込みは浅くなる。また電極材質によっても変化する。これらを図3に示す。
また,電極マイナスで,母材の陽極とタングステン電極の陰極が安定するためアークの集中が良く,電極許容電流も大きいので,深い溶込みが得られる。しかし,溶接材料による極性の選択性があるので注意が必要である。
参考文献
1)(社)溶接学会 溶接アーク物理委員会:溶接プロセスの物理,黒木出版,pp.130-132,(1996)2)古賀ら:平成9年第4回特殊材料溶接研究委員会,(社)溶接学会,(1997)
〈西川 和一 / 2012年改訂[字句修正]〉