接合・溶接技術Q&A / Q07-08-06

Q一定でない開先の自動溶接法について教えて下さい。

一般に,大形構造物では部材の加工・組立などの誤差が板継部に累積されるため,開先のルートギャップを一定に保てない。また,開先の加工誤差や目違いを無視できない場合もある。このような開先を一定の条件で溶接すると,溶着量の過不足はもとより,溶込み不良などの重大欠陥を生じる可能性が高い。したがって,一様でない開先部を自動溶接する場合,健全な溶接結果を得るためには,開先の状態を計測し,その結果に応じて溶接条件を適切に制御するセンシング機能が不可欠となる。

現在,開先の状態を計測するのに利用されている溶接ロボット用のセンサには,大別すると,①ワイヤタッチセンサ,②アークセンサ,③視覚センサ,④レーザ変位センサの4種類がある。これらのうち,ワイヤタッチセンサとレーザ変位センサは溶接前の事前センシングに,アークセンサと視覚センサは溶接中のリアルタイムセンシングに用いられる。

図1にワイヤタッチセンサによる開先溶接の一例を示す。図のように,溶接開始前に開先の両壁面をタッチセンシングして開先開口幅を計測し,教示時の測定結果と比較する。このセンシングを一連の溶接線の何箇所かで行えば,その溶接線における開先の不均一を近似的に計測できる。溶接時には,センシングの結果に応じてウィービングの振幅と溶接速度を増減することにより,溶込み形状と溶着量が適切に保たれる。

タッチセンサを利用した開先精度のばらつきへの対応のもう1つの例を図2に示す。これは,開先角度がばらつく開先に対して,開先開口幅をワイヤタッチセンサで計測してそのばらつきの度合いを計り,計測結果に応じて多層溶接の積層法を切り替える機能である。必要に応じて複数箇所をセンシングし,得られた結果の平均値,あるいは最大値を条件切り替えの入力情報とすることで,長い溶接線や曲線で構成されている溶接線など,開先誤差が一様でない溶接部へもこの機能を適用できる。さらに,何層か溶接した後で板の表面からビードまでの深さを測り,その後の積層法を改めて決定するなど,この機能を応用したさまざまなバリエーションが考えられる。

次に,アークセンサを利用した開先溶接の溶着量制御法の一例を紹介する。アークセンサとは,開先部でウィービング溶接を行う際に発生する溶接電流または電圧の変化を計測して現在位置と理想の位置との誤差を求め,溶接中リアルタイムに位置の補正を行うセンシング法である。ここでウィービングの端点に注目すると,開先の壁面とウィービング端点との相対位置関係,すなわち開先ルートギャップとウィービング振幅の関係により,ワイヤの突出し長が図3のように変化する。よく知られているように,ワイヤの突出し長が短くなるにつれて溶接電流は高くなるので,開先ルートギャップに対してウィービング振幅が狭いときにはウィービング端での溶接電流が低く,広いときには溶接電流が高くなるという傾向がある。したがって,適正振幅におけるウィービング端部での溶接電流値を制御目標とし,これを保つよう振幅を制御することにより,ルートギャップの変化に追従して適正な振幅を維持することができる。当然ながら,一定のビード高さを保つためには,ルートギャップが広いところでは溶着金属を増やし,狭いところでは減らさなければならないので,振幅に応じて溶接速度も制御している。

なお,本機能を前述のタッチセンサによる溶接条件切り替え機能と組み合わせ,開先角度がばらつく継手に適用している事例がある。この場合,初層では倣い機能のみのアークセンシングを実行し,2層目以降でウィービング振幅と溶接速度の制御を行っている。これにより,従来仕上げビードのみ手作業としていた継手(板厚32mm,深さ24mm,図面上の角度45°のレ形開先)の溶接を完全にロボット化することができた。

視覚センサを利用した溶接条件の適応制御の例として,ここではスリット状のレーザ光を2次元のCCDカメラで撮像する方式(光切断法と呼ばれる)を紹介する。図4は開先形状の計測の様子を模式的に示したもので,開先を横切るスリット光を照射し,その反射光をカメラでモニタリングしている。こうして得られた画像を2値化処理により線画に変換し,さらにカメラの取付け位置や取付け角度,焦点位置などの情報を基に3次元変換を行うことにより,開先の断面形状が得られる(実際には,乱反射や回折光の影響を排除するなど,断面形状を抽出するために様々な工夫が施されている)。開先の断面形状が得られれば,予め準備された溶接条件データベースから溶接条件を抽出することで,リアルタイムに継手に対して適切な条件が選定される。ただし,溶接の最中に積層条件が変化するのは望ましくないため,溶接開始前に全体の積層を決定するためのセンシングを行うことが必要な場合もある。

視覚センサの最大の特徴は,得られる情報量が他のセンサに比べて圧倒的に多いことである。このため,例えば一様でない目違いや肌隙のある開先部のリアルタイムセンシングなどに効果を発揮する。また,多層溶接の場合,前層,前パスのビード形状から当該パスの溶接条件を決定できるという利点があり,積層パス数が多い厚板の突合せ溶接には特に有効である。その反面,センシングデバイスとして光源とカメラが必要なため,狭隘部の溶接への適用が制限される。また,溶接に伴って発生する熱やヒューム,スパッタなどの影響を受け,耐久性が問題となる場合もある。

レーザ変位センサを用いた開先形状の計測は,図5のようにセンサをロボットで開先と直角方向に走査することで行われる。すなわち,ロボットの移動距離と計測されたセンサ~母材間距離から,座標変換なしで直接開先の断面形状を求めることができ,得られた結果に対応する最適溶接条件が条件データベースから抽出される。開先開口幅のみを測るタッチセンサに比べ,このセンサでは開先形状そのものを計測できるので,ルートギャップや開先角度など,特定の誤差だけでなく,肌隙,目違いなど,多様な誤差に対して適用できる。ただし,市販のセンサの場合,小型のものは最大センシング距離が比較的短く,最大センシング距離の長いものはサイズが大きいため,いずれのセンサを用いても溶接時にワークと干渉する危険性が高い。これを避けるために,センサと溶接トーチの持ち替えを行うなどの工夫が必要とされる。

以上,開先溶接部の溶接条件適応制御に用いられる代表的なセンサを紹介した。これらのうち,情報量が多く,計測できる誤差が多様であるのは視覚センサとレーザ変位センサであり,トーチの周囲に付帯物が不要で,アクセス性とコストパフォーマンスに優れているのはワイヤタッチセンサとアークセンサであるといえる。さらに,リアルタイムのセンシングの要否もセンサ選定の基準となる。これらを総合的に判断して,どのセンサを採用するかを選定する必要がある。

〈岩城 俊二〉

このQ&Aの分類

センサ

このQ&Aのキーワード

溶着量の制御

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