- 接合・溶接技術Q&A / Q08-02-08
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Qはんだ付において,金めっき,銀電極あるいは銅の細線がはんだに溶けてディウェッティングや線の断線が起こる現象がよくわかりません。特に,融点の高い金,銀,銅がなぜはんだ付温度である250℃程度で溶けるのでしょうか。また,その有効な防止対策はありますか。はんだ付において接合材料が溶ける現象に関して基本的な考え方とその対策を教えて下さい。
溶融はんだと接触した金,銀,銅などの固体金属がはんだ中に溶ける現象を溶解(dissolution, 一部でleachingとも標記されるが現象・目的からみて正しい表現ではありません)といいます。一方,はんだが溶融温度で融ける現象は溶融(melting)といいます。溶解はちょうど,氷砂糖が水に溶けるのと同様の現象であり,温度が高いほど,また時間が長いほど溶解量は多くなります。はんだ中へのAgの溶解は銀食われともいわれます。
現象の理解には溶解の速度式が便利であり,一言でいうと溶解の駆動力は,はんだ付温度における当該金属の飽和溶解濃度と実際の溶解濃度との差(Cs-C)になります1)。
試料サイズが一定(AおよびVが一定)の場合,(1)式右辺の(Cs-C)が大きくなると,溶解速度が速くなることになり,この濃度差はいわば溶解の駆動力です。また,溶融はんだの体積(V)が十分大きい場合,右辺Cはほぼ一定とみなせます。したがって,一定温度における飽和溶質濃度(Cs)すなわち固溶限が大きくなること(例えば,はんだ付温度の上昇)は,溶解速度や一定時間経過後の溶解量の増大につながることになります。
具体的に,銀および銅がはんだに溶けるメカニズムを状態図的に考えてみます。簡単のためにSnへのCuの溶解を図1のSn-Cu二元状態図(部分)で説明します。今,250℃の溶融Snに固体Cuが接していると,溶融Sn中のCuが点Aで示す値(250℃における液相線のCu濃度でこれがこの温度でのCsになります。)になるまでCuは溶解し続けます。この濃度に達すると,理論的にはCuの溶解は停止します。Sn温度が高いとCuの溶解量が増えることは本図から簡単に理解できます。
はんだ中への固体金属の溶解反応は界面での反応相(金属間化合物)形成,反応相中の元素の拡散,に大きく支配されるので,実験結果が一番頼りになります。Sn-Pn共晶はんだへのいくつかの金属の溶解速度を求めた結果を図2に示します2)。鉛フリーはんだにおいても類似の関係がみられますが,溶解速度は数倍速くなりますので,鉛フリーはんだにおいてはめっきやCu導体などの溶解損傷には留意しなくてはいけません。
ぬれ性確保のためによく施されるAuめっきは溶解速度が速く,セラミックスなどの最外表面めっきに使用した場合,その溶解によって現れる下地のぬれ性が劣るといわゆるディウエッティングを起こしやすいことは図から明かです。
有効な防止策は低温短時間作業ですが,現実には困難であり,対策として,はんだへAg,Cu, Niなどを微量添加することにより当該元素の溶解をある程度抑制できます。図3にCu添加によるCu線の抑制効果を示します3)。銅細線のはんだ付においてはCuの微量添加がある程度の効果をもつ。Sn-36Pb-2Agはいわゆる銀食われ抑制はんだです。
もちろん,不ぬれやブリッジなどの欠陥を生じないように極力低温短時間の作業を心がけるべきであり,金属の過剰溶解は接合界面での金属間化合物の過剰生成とも関係するので,加熱方法や温度プロファイルの工夫も重要です。
図1 Sn-Cu二元状態図を用いた溶融はんだへのCu溶解の説明,純Snはんだを用いてCuを250℃ではんだ付するとき,(Cs-C)は矢印Aに対応,Sn-0.7Cuはんだを用いると(Cs-C)は矢印Bとなり小さくなる,同様に,はんだ付温度上昇で (Cs-C) が大きくなり,はんだ付温度低下では小さくなる.(Cs-C)が溶解の駆動力であることがよくわかる。
参考文献
1)竹本正:ろう付およびマイクロソルダリング,溶接学会誌, Vol. 77(2008), No. 7, 670-677.2)R.J.Klein Wassing:Soldering in Electronics,2nd Ed., Electrochem.Pub.Scotland,(1989).,同上第1版日本語訳,竹本 正,藤内伸一監訳,(株)日刊工業新聞社,(1986)
3)竹本正,佐藤了平:高信頼性マイクロソルダリング,工業調査会,(1991)
〈竹本 正 / 2012年改訂[加筆・一部修正・図1]〉