接合・溶接技術Q&A / Q09-07-02

Q13Cr-高Ni材は水車ランナに最適な鋼種と聞いていますが,溶接構造で製作する場合の熱管理,施工上の注意事項等を教えて下さい。

13Cr-高Ni鋼は強度,靱性,耐キャビテーション,壊食性に優れた性質を持ち,13Cr-4Ni鋼や13Cr-5Ni鋼が代表鋼種で,従来いずれも鋳鋼であった。これらの優れた性質を溶接構造に活かすために,新たに,この圧延鋼板が開発された。

表1に適用材の化学成分例を示す。素材の熱処理としては熱間圧延後620℃で焼き戻しを実施した。Ms点は約230℃,Mf点は約40℃と低く,溶接時の予熱温度は通常のマルテンサイト鋼に比べ低くでき,その温度は図1のごとくMIG溶接で75℃以上,電子ビーム溶接(EBW)で10℃以上である。

図2にポンプ水車ランナの構造を示す。ランナは全長6.8mのベーンを6枚有するもので,直径7.1m,高さ3m,重量約110tの大型品である。ベーンおよびバンドには13Cr-5Ni鋼板を適用し,クラウンについてはその寸法と形状から鋳鋼を使用している。このランナを溶接構造で製作する場合の留意点としては,三次元の複雑なプロフィルをもつベーンの精度確保と全体溶接時の熱管理である。

図3はプレス加工のための,羽根分割,板取り計算を示す。設計のCADデータを基にベーンプロフィルを創成しこれをCAMデータとして使用する。このデータを基に製作可能なように,JOB1,JOB2,JOB3と3つに分割したのち,プレス成形時の最適加工姿勢をオンライン端末の画面上で求め,熱間プレス成形される。その後おのおのを溶接し,1枚のベーンを製作する。この溶接には,溶接による熱変形を極力抑えるため電子ビーム溶接を用いる。図4にベーンの電子ビーム溶接,写真1に電子ビーム溶接部断面マクロ写真例を示す。

電子ビーム溶接は,①真空中で溶接するため溶接中に溶融金属の脱ガスが行われるので欠陥が少ない,②高エネルギー密度の電子線で厚い板でも1パスで溶融させて溶接するので変形が少ない,③完全自動溶接であるので品質が一様である,などの特長を有する。電子ビーム溶接は,空間的余裕の少ない真空容器中にワークを設置し,溶接姿勢を保持して行う必要がある。ベーンは三次元の曲面を有する大型製缶品であるので専用のポジショナーおよび補助マニュピュレータが必要である。

全体組立要領としては,クラウン上にベーンおよびバンドを精度良く組み立て,互いの部材を溶接し,一体のランナを製作する。ベーンとクラウンとの溶接パス総長は,ベーン6枚で約2kmにもなる。水車ランナなど厚板の大型溶接構造物で多層盛溶接する場合は,特に熱管理を十分に行うことが重要である。予熱は図1で示したごとく,MIG溶接で75℃以上の予熱を全体に渡り行う必要がある。また,多層盛となるため,終了時には後熱処理も行った方が望ましい。後熱処理は低温割れの予防の意味から行うもので,実作業を考慮し200℃以上で一定時間保持する。また,溶接終了後は,熱処理として応力除去焼鈍を施し,非破壊検査および寸法検査を行い品質の確認を行う。

参考文献

1)新倉,桑原,大嶋:最近のポンプ水車ランナの製作技術,ターボ機械,Vol.23,No.9,p.34(1995.9)

〈桑原  広〉

このQ&Aの分類

水車ランナ

このQ&Aのキーワード

施工法製品名:水車ランナ材質:13Cr-高Ni鋼施工法:MAG

Q&Aカテゴリ一一覧