接合・溶接技術Q&A / Q10-02-01

Q図1に示す水車ケーシングは,調質高張力鋼590MPa(HT590)が使用され,発電所の据付現場で現地溶接します。水車ケーシングの断面を図2に示します。溶接施工はすべて手溶接で行い,溶接棒はE4916系の低水素系溶接棒f4を使用,開先はV形突合せ溶接です。積層は図3に示すように,まず部を溶接し,ついて部を深さ15mm裏はつり溶接し,その後部を溶接する方法を採用しています。今回,溶接完了後X線検査を実施したところ,部溶接部の止端を起点として母材に割れが発生していることが判明しました。当面の処置と対策,並びに標準的な溶接施工はどのように行えばよいでしょうか。

補修の方法としては,まず超音波探傷で割れの深さを確認し,ガウジングで割れを完全に除去する。つぎに,グラインダで開先を整形し浸透探傷または磁粉探傷で割れが残っていないか慎重に確認する。補修溶接は本溶接の予熱温度より50℃高めにし,溶接棒は所定の温度に乾燥したものを使用し,溶接欠陥が生じないよう慎重に施工する。この場合,溶接技術者の監督・指示のもとに行われることが望ましい。

このケーシングのような大形で外的拘束の大きい継手では,溶接割れを防止するため,継手部の角変形を小さくし,溶接部(特に溶接止端部)の応力集中をさける処置が必要である。このため標準溶接施工条件としては,

① 予熱温度:≧100℃

② 溶接順序:部の溶接が完了した時点で,ビードの重なりや溶接金属と開先面の境界部をグラインダで仕上げてノッチをなくし,応力集中をさける。部の溶接完了後,部ビード表面を浸透探傷試験を実施して欠陥のないことを確かめてから部の溶接を行う。部溶接完了後,ビード表面のアンダカットの有無を確かめビード表面を仕上げ,最終的にX線検査で溶接部の欠陥有無を確認する。

③ 特に現地工事で溶接環境が悪く,湿気の多い場所では溶接棒の乾燥はもちろんのこと作業交代時には開先面の予熱を十分に行い,水分やミルスケール等を除去してから溶接すること。また,現地溶接作業を昼夜の2交代制で実施するような場合は,作業交代時の連絡を密にして溶接部の温度管理に万全を期すこと。さらに,ケーシングの現地溶接のように数名の溶接工が同時作業する場合,溶接熱によりステーリングの直径寸法が変動しないよう,据付け寸法基準の公差内に入るよう溶接熱量のバランスを考慮した溶接順序を決めることも大切である。

〈神田 茂雄・妹島 五彦/ 2012年改訂[規格・SI単位]〉

このQ&Aの分類

水車ケーシング

このQ&Aのキーワード

割れ対策と溶接施工法製品名:水車ケーシング材質:高張力鋼施工法:手溶接

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