接合・溶接技術Q&A / Q11-01-27

Qイオンビームによる加工プロセスの原理と特徴について教えて下さい。

イオンビームによる加工は,イオンビームを固体に照射したときに生じる付着堆積,スパッタ,イオン注入などの作用を利用する。図1にこれらの作用を模式的に示す。照射作用はイオンビームの運動エネルギー(加速電圧によって決定される粒子速度)に依存する。イオンのエネルギー(加速電圧)が数Vから数10V程度までの低い領域では,照射されたイオンが材料表面を動きまわり最終的には表面の安定なところにとどまるマイグレーションもしくは付着堆積が生じる。加速電圧が数100V以上になってくると試料表面の原子がイオンとの衝突により,はじき飛ばされるスパッタリングが顕著となってくる。さらに,エネルギーを高くして数10kV以上にすると,イオン自身が固体中に侵入するようなイオン注入効果が生じる。

図2は,基材を銅としてアルゴンイオン(Ar),ヘリウムイオン(He)を照射した場合のイオン加速電圧(運動エネルギー)とスパッタ率との関係を示している。スパッタ率は1個のイオンが固体表面にぶつかったとき,スパッタリングではじき飛ばされる試料固体の原子の数である。スパッタ率が1よりも小さくなると,固体原子はほとんどはじき飛ばされない。ヘリウムイオンに比べると質量の大きいアルゴンイオンの場合,500V程度以上にすると,スパッタ率が1よりも大きくなり,エッチングなどの除去加工に利用される。加速電圧を高くすると,数10kVの領域でスパッタリングの現象が支配的であるが,一部のイオンは極表面層に侵入していく。

図3は加速電圧と平均投射飛程(イオンが固体内部に侵入する深さ)との関係を示している。アルゴンイオンの場合,加速電圧が20kV程度で数10nmの深さまで侵入するが,さらに数100kVを超えると,イオンは深く固体中に侵入するようになり,スパッタ率も低下するので,イオン注入が支配的な現象となる。一方,ヘリウムイオンのように小さく,軽いイオンの場合,スパッタリングはほとんど起こらず,基材中に侵入することになる。

イオンビームによる表面加工では,真空中で原子状,分子状,クラスタ状のイオンビームを適当なエネルギーに加速して固体に照射し,上述の現象を利用して,基板表面の原子や分子,その集団などの配列を変えたり,除去したり,混ぜたりして,熱平衡条件ではできないような,よりよい材料や自然界にない人工物質の創成,原子サイズの精度の加工を行う。イオンビームプロセスはこれまで主として半導体デバイスの製造に用いられてきたが,最近では電気・電子,磁気,光学の分野や金属,機械,化学,医学などに有用な新材料の創成や精密加工技術の1つとして,研究開発が盛んに行われている。

〈平田 好則〉

このQ&Aの分類

イオンビーム

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加工プロセス

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