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磁石のチカラでアーク溶接の品質制御

琉球大学 工学部
松 田 昇 一

1. はじめに

アークを用いた溶融溶接は施工の利便性等から、工業的に最も広く利用されている溶接法です。しかしながら溶接効率を上げるために入熱を大きくした場合、特に上向、立向の難姿勢溶接1)においては、重力の影響で溶融金属が垂れ下がり、アンダーカットやオーバーラップ等の形状欠陥が発生し易くなります。図1に上向姿勢溶接において重力が起因する主な形状欠陥例を示します。図のように入熱を大きくした場合、裏側(裏波側)のビードが重力の影響で大きく垂れ下がるので、これらの形状欠陥が溶接品質や溶接効率の低下の主な原因となります。これに対し、我々2)は溶融池内に流れる電流に対し、外部より電磁石を用いて磁場を付与し、電流と磁場の相互作用で溶融池内に反重力方向の電磁力を発生させ、溶融金属の流れとビード形状を制御する溶融池磁気制御溶接法(以下、ECMP (Electromagnetic Controlled Molten Pool Welding Process) 法と略する)を開発しました。本手法は既にLNGタンクの横向、立向姿勢の厚板多層溶接等に実用化3)されており、従来法の2〜3倍の高溶着速度化を達成しています。

本稿は、(電)磁石を用いたECMP溶接の基本概念(メカニズム)、現在の状況および本手法の今後の可能性を紹介することを目的とし、最も基本的な下向姿勢溶接にECMP法を適用した場合のこれまでの研究結果を報告します。

 

図1 重力に起因する溶接欠陥例

2. ECMP法の基本概念と予想される現象

ECMP法は、溶融池内に流れる電流に対し外部磁場を付与することにより、フレミングの法則に従い、反重力方向の電磁力を溶融池に発生させ、溶融金属の流れやビード形状を制御する溶接法です。磁場は、大別して直流磁場と非対称交流磁場を使用しています。これからそれぞれの基本概念を説明します。

2.1 直流磁場を用いたECMP法

図2にECMP法を下向姿勢Hot Wire TIG溶接に適用した場合の基本概念図を示します。図中Fは電磁力、Iは電流、BXは磁場(磁束密度)を示しています。本図では手前側をN極、奥側をS極とし、溶接線に直交する外部磁場BXを付与しました。トーチはマイナス極に、添加ワイヤはプラス極に接続し、それぞれにアーク電流IA、ワイヤ加熱電流IWが流れます。そのためアークとワイヤ挿入点の間の溶融池には比較的強い一方向電流IU (=IA +IW)が生じ、磁場BXとの相互作用により、フレミングの左手の法則にしたがい上向(反重力方向)の強い電磁力F (=IU×BX)が発生します。この上向の電磁力により溶融金属の垂れ下がりを抑制することができ、前述した重力に起因する溶接欠陥を防ぐことが期待できます。

図2 ECMP法の基本概念(直流磁場)

また、原理上、アークの前方およびワイヤ挿入点後方の溶融池にはそれぞれ電流が流れているため、磁場との相互作用により、下向き(重力方向)の電磁力が生じます。アーク前方の下向きの電磁力は、掘り込み力の増大が期待でき、現在、厚板溶接において、下向の電磁力を積極的に利用した新しいECMP法を研究中です。

一方、ワイヤ挿入点後方にも下向の電磁力が発生しますが、凝固ライン近傍で、溶融金属の温度も下がり、粘度が大きくなることから、本下向の電磁力は溶融池の流動に大きな影響を与えないと考えられます。さらに、アークも電流の流れであるため、溶融池と同様に磁場との相互作用により、本条件においては溶接方向に対して後方へ電磁力FAが生じます。その電磁力FAにより、アークが後方へ偏向します(図2参照)。

2.2 非対称交流磁場を用いたECMP法

直流磁場を用いたECMP法において、さらなる高効率化のために、外部磁場BXを大きくした場合、前述のようにアークにも電磁力FAが働くため、アークが極端に後方へ偏向し、母材への入熱が低下するため溶接が不安定となる場合が生じました。

そこでアークの極端な偏向の抑制を目的に、外部磁場を非対称交流磁場としました。非対称交流磁場の特徴は時間周期的に磁場の方向が変わる点であり、相互作用で発生する電磁力の方向も周期的に変化します。

図3に非対称交流磁場を付加した場合の溶融池とアーク内の電流の流れを示しています。本図では手前側をS極、奥側をN極とした場合であり、図2の直流磁場の場合とは逆方向に外部磁場を付与しています。トーチおよび添加ワイヤの極性は同じですが、磁場の方向が逆のため、溶融池中央部に下向の強い電磁力Fが発生します(図3参照)。またアークには、図2の場合とは逆方向(溶接方向)に電磁力FAが生じ、アークを溶接方向へ偏向させています。

非対称交流磁場を発生させる磁化コイル(電磁石)の入力電流波形を図4に示しています。図中プラスの電流が流れる時間をtp、マイナスの電流が流れる時間をtnとし、プラスの電流が流れる時間の比率をデューティ比Dr(=tp/(tp+ tn))と定義しました。なお、プラスの電流が流れている間は溶融池には上向に、アークには溶接方向に対して後方への電磁力FA図2参照)が発生します。マイナスの電流が流れている時間は、溶融池およびアークに働く電磁力の方向がそれぞれ逆になります(図3参照)。

図3 ECMP法の基本概念(非対称交流磁場、下向の電磁力が働く場合)

図4 磁化コイル(電磁石)の電流波形

本研究では、重力により垂れ下がる溶融金属を抑制し、形状欠陥を防ぐことが主目的であるため、上向の電磁力が働く時間が長くなるようにデューティ比Dr= 0.8としています。なお、非対称交流磁場の非対称とは磁場分布(磁化電流分布)が時間的に非対称であることを指しています。その結果、非対称交流磁場を付加することにより、溶融池には上下方向に電磁力が周期的に発生するため、溶融池は上下に振動します。またアークは溶接線前後方向に振動します。その結果、磁場を大きくした場合においてもアークの極端な偏向が抑制され、安定した溶接が可能になります。