溶接変形の推定に際して、有限要素方を用いたシミュレーションは非常に有用な手法ですが、近年の急速な計算機器能力の向上にも関わらず、生産現場においては、今なお、熟練技能者の経験と感に依存している場合がほとんどであります。有限要素法を用いた溶接変形推定法としては、溶接時に時々刻々に変化する物理状態を順次解析する熱弾塑性解析法と、溶接前後における物理状態の変化に注目した固有変形あるいは固有ひずみを利用した弾性解析の二種類があります。特に、後者の固有変形を利用した解析法では、溶接前後のみに注目しているため、複数箇所を時間差で溶接する時の溶接順序の影響や、溶接施工時の部材間のギャップ量の変化などの過渡的な溶接現象の影響を考慮した解析は困難でありますが、非常に短時間で船舶や橋梁などの大規模な構造物の溶接変形が推定可能であると言う利点を有しています。しかしながら本解析法においては、解析の前段階として、固有変形あるいは固有ひずみがデータベースとして必要不可欠です。
現状において、一般的に公開されている固有変形あるいは固有ひずみデータベースは、佐藤、寺崎らが軟鋼を対象に実験的に構築したデータ1)にほぼ限られています。そのため、この固有変形データベースの拡充を目的の一つとして、平成17年度より三年計画で、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「知的基盤創成・利用促進研究開発事業」において、「溶接設計支援システム用データベースの構築の調査研究及び研究開発等」プロジェクトが実施されました。
そこで、一般社団法人日本溶接協会・溶接情報センターでは、さらなる固有変形データベースの普及ならびに有限要素法を用いた溶接変形推定法の推進を目的に、ウェブ上で体験可能な固有変形データベースを用いた簡易モデルによる溶接変形シミュレータを開発を行いました。
溶接に携わる皆様方が、有限要素法を用いた溶接変形推定法の有用性を体験頂き、実施工現場や設計、研究の各分野において、本固有変形データを用いた解析を活用して頂ければ幸いです。