- 接合・溶接技術Q&A / Q02-02-01
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Q高張力鋼の溶接構造物を組み立てる際のタック溶接(仮付け溶接)のビート長さを40~50mmとし,それより短いビードのタック溶接を避ける溶接施工基準が多いのはなぜですか。
タック溶接は,通常ビードのサイズが小さく,かつ長さが短い溶接で,仮付け溶接ともいう。
タック溶接のビード長さとHAZの最高硬さとの関係を実験で求めた一例を図1に示す1)。
即ちビードが短ければ短い程,溶接ボンド部の硬化が著しく,ビード長さゼロ,すなわちアークストライク部の硬さは最高である。一方,ビード長さが約50mmより長くなると最高硬さがほぼ横這いとなることが分かる。
どのような種類の鋼材についてもHAZがビッカースの硬さて350くらい以上になると,マルテンサイトという金属組織となり,低温割れ(遅れ割れ)発生の危険性が大きくなる。高張力鋼ではタック溶接のビード長さが30mm以下であると,硬さがこの危険領域に入る。
従って,多少安全側に余裕をとって40~50mmをタック溶接の適正長さとした訳である。
しかし,むやみに長いタック溶接は組立上不必要であるし,不経済であるので,50mmくらいを上限としている。
参考文献
1)(社)日本溶接協会 造船部会:溶接品質管理マニュアル,(株)産報,(1975)〈尾上 久浩 / 2012年改訂[一部修正]〉