接合・溶接技術Q&A / Q02-03-03

Q100%オーステナイト組織となる溶接金属は溶接割れを起こしやすいが,5~10%位のdフェライトを含んだ溶接金属は割れがほとんど発生しません。この理由とオーステナイト溶接金属の割れを防止するために施工面でどのような工夫が必要ですか。

完全オーステナイト系ステンレス鋼の溶接時に,しばしば高温割れが発生する。この溶接金属の凝固割れを防止するために,5~10%位のδフェライトを室温でその組織に残留させることが,通常行われている。これは不純物元素であるS,Pがδ相に入りやすいため,δγ相が2相になると,粒界面積が増加し不純物が分散するためとされている。もちろんS,Pが少ないほど凝固割れは少ない。これ以外に初晶がδ相の場合,初晶の粒界上に存在していた低融点生成物が,つぎに変態するg相の結晶粒内に入ることにより,凝固割れの進展が阻止されるという実験結果も報告されている。ステンレス鋼溶接金属の溶接ままの組織と化学成分(等価Ni量と等価Cr量)との関係を示すシェフラの組織図において,中央付近に示されたER308はミグ溶接用の裸棒19-9溶着組織であるが,この領域は比較的安全域である。これに対して,オーステナイト地中に図に示すような細長いデルタフェライト相が4%以上含まれると,割れが著しく減少することが知られている(図1参照)。

また,347型ステンレス鋼中のフェライトの組織を示す(図2参照)。

オーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属割れに影響する因子としては,①組織,②溶接棒と母材の化学成分,③溶接技法,④被覆材,⑤継手形状および⑥拘束が挙げられる。合金元素のうちMo,Mn,Ni,Cは割れの減少に有効で,これに対してCbとSiおよびP,Sは有害である。また,過度のNiも割れを助長しやすい。なお,C=0.07~0.11%,Mn=1~5%の範囲では炭素あるいはマンガンの増加とともに割れが顕著に減少し,かつP=0.02~0.05%,S=0.01~0.05%の範囲内でもP,Sの増加とともに割れが増大することが示されている。

溶接金属割れを防止する施工法は,被覆アーク溶接で説明すると,①アークはできるだけ短くなるようにし,クロムの酸化による消失を防止する,②クレータ処理を入念に行う,③突合せ溶接の両端にはタブを付け,始点・終点の欠陥をさける等である。

参考文献

1)鈴木春義:改訂版最新溶接ハンドブック,(株)山海堂,p.534

2)佐藤邦彦:溶接強度ハンドブック,(株)理工学社,p.3-20

3)(社)溶接学会編:溶接・接合便覧,丸善(株),p943

〈村井 英夫〉

このQ&Aの分類

ステンレス鋼

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割れ防止法

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