- 接合・溶接技術Q&A / Q02-03-05
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QSUS304の溶接部を熱硝酸溶液中に浸浸したところ,溶接ボンドからやや離れた熱影響部に局部的に帯状の腐食が生じました。この原因とその防止方法について教えて下さい。
SUS304は,約650℃近傍の温度範囲に長時間保持すると,結晶粒界にCr23C6が析出し結晶粒界近傍のCr濃度が減少する。この結果,熱硝酸溶液中などの腐食環境における耐食性が低下する。この現象は鋭敏化と呼ばれており,特にSUS304,316などの通常のオーステナイト系ステンレス鋼で生じやすい。
図1は種々の温度条件において鋭敏化が生じ始める時間を示した図面であり,鋭敏化曲線と呼ばれる。図に示すように,低炭素型(SUS304L,316L)または安定型オーステナイト系ステンレス鋼(SUS321,347)はSUS304,316に比べて鋭敏化は生じにくい。この原因は,低炭素型または安定型オーステナイト系ステンレス鋼の場合には固溶炭素量が少ないために,結晶粒界でのCr23C6生成量が少く,結晶粒界近傍でのCr濃度の低下が生じ難いためである。
溶接熱影響部での局所的な腐食を防止するためには,SUS304または316を低炭素型または安定型オーステナイト型ステンレス鋼に変更することが有効である。なお,母材を変更せずSUS304に熱処理を実施することにより,鋭敏化が進んで低下したCr濃度を高める(回復処理と呼ぶ)ことも考えられるが,熱処理施工両端部の約650℃となる部分が鋭敏化しやすくなるため推奨できない。
参考文献
1)(社)腐食防食協会 63-2分科会(ステンレス鋼の鋭敏化曲線評価分科会):ステンレス鋼の鋭敏化曲線の収集と解析,防食技術,39巻,p.641,(1990)〈石井 邦雄〉