- 接合・溶接技術Q&A / Q02-03-10
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QSUS410および430の特性と溶接に当たっての留意点について教えて下さい。
クロム系ステンレス鋼は,13Crステンレス鋼(SUS410)に代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼と,18Crステンレス鋼(SUS430)に代表されるフェライト系ステンレス鋼とに分けることができる。
以下それぞれの特長および溶接に際しての留意事項を述べる。
(1) マルテンサイト系ステンレス鋼
室温付近ではフェライト系ならびにオーステナイト系ステンレス鋼と較べ強度が高い。また焼入れ硬化性に富み耐磨耗性に優れ,この特性を生かして用途も多い。また,高温クリープ強度を改良し,タービンブレードなどの用途もある。
結晶学的には変形体心立方格子を示し,遷移現象があるため,低温におけるじん性値は低下する。
溶接に際しては,拡散性水素の存在により低温割れが発生するので,予熱および層間温度管理がその防止のため重要となる。遅れ割れ防止のため,溶接直後に400℃以上で30分以上の直後熱処理は有効である。
溶接後の熱影響部の軟化ならびに延性回復のため,720~790℃熱処理が一般に実施される。
475℃ぜい性,また,高温でのσぜい性も発生しない。オーステナイト系ステンレス鋼は,ポリチオン酸環境下硫化物応力腐食割れが発生するという問題点があるが,マルテンサイト系ステンレス鋼では,同一環境下硫化物応力腐食割れが発生しないので,石油精製プラントの脱硫プロセス機器のライニング材として用いられることも多い。
(2) フェライト系ステンレス鋼
フェライト系ステンレス鋼は,硫酸露点腐食環境または硫酸製造プラント環境で耐食性が優れているため,このような環境での耐食材あるいは構造材として活用される。特に25Cr~35Crなど高クロム・ステンレス鋼は優れた耐食性を有している。しかし,475℃ぜい性またσ相ぜい性を呈するため使用温度制限を受けやすい。
マルテンサイト系ステンレス鋼と同じく遷移現象を呈し,低温じん性値は極めて低い。近年CおよびNなどを非常に低くし(C<0.01%,N<0.007%),低温じん性を改善した高純度フェライト鋼が開発され,かつ溶接性,溶接熱影響部のぜい化等も改善され,化学プラント機器材料としての用途が増えている。
一般のフェライト系ステンレス鋼では,溶接金属およびボンド近傍の熱影響部の結晶粒が粗大化し,延性,じん性が母材と較べて著しく劣化する。700~750℃の後熱処理によって伸びや絞りは回復するが,この熱処理によっても粗大化した結晶粒は変らないので,じん性値は回復しない。しかし,上述の高純度フェライト系ステンレス鋼では従来の材料と較べTi,Zrなど細粒化元素の添加により結晶粒の粗大化を防ぎ,じん性の改善がはかられている。13Cr鋼と同じく遅れ割れが発生するので予熱が必要である。
フェライト系ステンレス鋼としては,13Cr-0.2Alのように低炭素で少量のAlを含有したフェライト系ステンレス鋼もあり,マルテンサイト系よりも溶接性が良好のため,マルテンサイト系ステンレス鋼の代わりに使用される例も多い。
溶接に際しての留意事項は,13Cr鋼と同じような注意が必要である。
参考文献
1)(社)溶接学会編:溶接・接合便覧,丸善(株),(1990)〈渡邊 竹春 / 2012年改訂[図SI単位]〉