- 接合・溶接技術Q&A / Q02-03-25
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Qチタンおよびジルコニウムの溶接技量検定について教えて下さい。
昭和30年代に始まる我が国高度成長期において,チタンが耐食性新材料として日本の化学工業界に迎えられ,その空前の発展を支えた1つの要因となったにもかかわらず,チタン溶接技量検定の確立はこれまで順調に推移してきたとは言い難い。
すなわち,1973年に当時の時代背景の下で,(社)日本溶接協会規格WES 124“チタン溶接技術検定における試験方法並びにその判定基準”が制定されたが,溶接部表面の変色程度を対象とした外観試験だけでは適正な合否判定は困難であることが明らかとなり,検定実施は事実上凍結された。検定が実施されるのは,WES 124に新たに曲げ試験が追加され,WES 8104-1983“チタン溶接技術検定における試験方法及び判定基準”に改正されてからである。WES 8104による検定はその後約15年間実施されてきたが,受検者は毎年極めて少なく,検定合格者が最も多かったのは1991年の97名というような状況で推移してきた。この数字は,JIS Z 3821によるステンレス鋼溶接技術検定合格者が毎年約8,000人(そのうち約7割がティグ溶接のみの合格者と推定)であることと比較すると,チタンの使用量を勘案してもいかに少ないかがわかるはずである。このような格差が生じた理由として,まずWES 8104は制定当時の我が国チタン溶接技術レベルを色濃く残しており,現在の技術水準からみると改正すべき箇所が多く,それがためチタン溶接メーカ側から軽視されていたこと,さらにJIS規格でないため知名度が薄く,法規などからも無視されていたことなとが挙げられる。
いずれにしてもWES 8104は過渡期の規格であり,これ以上この規格によるチタン溶接技術検定の進展は期待できないと判断され,WES 8104を発展的解消して早急にJIS化すべきであるとの気運が盛り上がってきた。この趣旨は,1993年(社)日本チタン協会から(社)日本溶接協会あてに申請され,その後工業技術院で承認された結果,1995年6月JIS化原案作成委員会が設立され,1996年2月JIS原案が最終的に成文化された。その内容は基本的には,活性金属としてのチタンの溶接技術の特長を強調しながら,ステンレス鋼など他の工業材料の溶接技術検定との整合性を考慮して,その検定方法の普及を図ることを目的としている。WES 8104では,曲げ試験において縦表曲げ試験のような厳しい試験が要求されていたが,JIS原案ではJIS Z 3122(突合せ溶接継手の曲げ試験方法)を取り入れて簡明化している。
しかしながら,JIS原案は成文化されたもののそのまま正式に制定されるに至らなかった。その理由は,1995年に作成されたチタン・チタン合金を対象とする溶接技量検定の国際規格案ISO/DIS 9606-5が丁度その頃各国の投票にかけられており,工業技術院からJIS原案との整合性を含めた日本側の意見をまとめるよう指示されたからである。当該国際規格案は,鉄鋼の溶接技量検定が基本思想となっており,チタンの溶接特性はほとんど考慮されていなかったので,修正意見をつけて日本としては反対投票を行った。投票結果は賛成22カ国,反対は日本およびスイスのみであったが,日本の反論が大いに評価され,その後当該規格案は差し戻しとなり,CEN(欧州標準化委員会)で度重なる審議が行われ,現在Final draft pr EN ISO 9605-5の最終段階に入っている。曲げ試験の曲げ半径および目視試験の変色程度の項目で問題が残っているものの,実質的には日本側の意見はほとんど採用されており,その適用については,現状では何ら支障はないものとなっている。またそのMar.1997版からは,材料としてジルコニウムとその合金が追加されたが,これはJIS原案の解説7.において将来的にその導入を期待していたものであり,時宜にかなっている。
このような国際規格対応業務の成果が工業技術院にも認められ,当該JIS原案は1997年8月20日,JIS Z 3805-1997(チタン溶接技術検定における試験方法及び判定基準)として制定された。その詳細は,当該JIS本文およびその解説を参照されたい。
また,将来ISO 9606-5が新規格として制定された際には,JIS Z 3805もその内容を整合化させる必要があり,チタン合金やジルコニウムとその合金を材料として追加するなどの改訂を行わねばならないが,材料範囲の拡大に伴う曲げ試験の当該曲げ半径の決定やジルコニウム材の外観試験のための変色判定サンプルの作製など残された課題は多いと考えられる。それ以外にも他の工業材料の溶接技術検定に先駆けて,放射線透過試験すなわちJIS Z 3107(チタン溶接部の放射線透過試験方法)の導入を計画している。これは耐食性材料としてのチタンやジルコニウムは,一般的に薄肉厚の材料が使用されており,溶接部の内部欠陥であるブローホールの存在はその耐食寿命に著しい影響を及ぼすことを考慮すべきであるとの考えに由っている。
参考文献
1)横山博臣:チタン溶接技術検定(JIS Z 3805)制定の経緯と今後の課題,チタン,(社)日本チタン協会,Vol.46,No.2,pp.126-129,(1998)〈横山 博臣〉