- 接合・溶接技術Q&A / Q02-03-27
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Q銅および銅合金の溶接に際しての方法と,起こりやすい欠陥はどのようなものですか。
1.溶接法
銅および銅合金の溶接には各種アーク溶接,ガス溶接,ろう接,拡散溶接,抵抗溶接などが用いられるほか,熱集中性の良い電子ビーム溶接も用いられる。このうち,イナートガス溶接,被覆アーク溶接,ガス溶接およびろう接について述べる。
(1) イナートガス溶接
熱集中性が優れており,比較的容易に溶接が行えることから,最も一般的な方法である。ティグ溶接はシールドガスに不活性ガス(Ar,Heなど)が用いられるため,大気中の酸素などとの反応を考慮する必要がなく,黄銅を除くほとんどの溶接が可能である。特に板厚6mm以下の銅および銅合金の溶接に適する。ミグ溶接では一般にArまたはHeをシールドガスとして用いる。ティグ溶接に比べ溶着速度が大きく,板厚6mm以上の銅,銅合金の溶接のほか,肉盛溶接にも用いられる。
(2) 被覆アーク溶接
イナートガスアーク溶接に比べて熱集中性が悪く,スラグの巻込みやブローホールが発生しやすいため,溶接の信頼性がやや劣る。しかしながら簡易に溶接できることからよく用いられる方法の1つで,エバジュールや白銅の溶接に適する。
(3) ガス溶接
純銅や黄銅の溶接にしばしば用いられる。銅の場合,酸素―アセチレンガスを用い,溶接に際してはホウ砂/塩化物系フラックスを散布し十分な予熱を必要とする。なお,タフピッチ銅ではブローホールや割れが発生しやすい。黄銅の溶接では亜鉛が蒸発しやすくブローホールが生じやすいため,フラックスを用い酸化炎で行う。
(4) ろう付
電気伝導性を必要とする場合や薄板で溶接が難しい場合などに,銀ろう,黄銅ろうなどが用いられる。
2.材料別問題点
(1) 純銅
純銅の溶接時に発生する問題点としては,割れとブローホールがある。割れは高温割れであり,Pb,Bi,P,Sなどが粒界に偏析すると,凝固時および加熱時に局部溶融して,割れが発生する。また,タフピッチ銅のように酸素含有量が多いものは,溶接雰囲気中より多量の水素を吸収すると,酸化物の還元で生じた水蒸気によっても割れが発生する。このことは,銅の熱膨張係数が大きいために溶接時に大きなひずみが発生することにも影響されている。また,銅は炭素鋼の約8倍以上の熱伝導度があるので,溶接時に局部加熱が難しく,十分な溶込みを得るには高温(400~500)℃の予熱が必要である。
(2) Cu-Al系合金
この系では,溶接部の割れが最も問題となる。通常,この合金系の溶接金属はα単相であるが,α単相には高温でぜい化域が存在し,またα相そのものも割れ感受性が高いため,多層盛溶接での前層ビードに割れが発生しやすい。これを防止するには,Al添加量を増加してα+βの2相になるような溶接材料を用いるのが好ましい。しかし,Al量が増大し,β層の析出量が多くなると,このβ相は冷却過程で硬くて脆いγ相を析出する可能性があるため,割れ感受性が高くなる。
(3) Cu-Ni系合金
溶接金属はデンドライト組織が明瞭な凝固組織となり,熱影響部では焼なまし双晶を含んだ粗大な結晶粒となる。また,溶接部は,不純物による粒界割れ,水蒸気発生による粒界割れおよび高温ぜい性による割れなどが発生しやすい。
(4) Cu-Zn系,Cu-Sn系合金
Cu-Zn系合金では溶接熱でZuが蒸発し,多量のヒュームが発生する。したがって,この系では共金系の溶接材料は使用できない。また,両合金系はPbなどの第三元素が添加された時,Pbなどは粒界偏析を起こし,割れが発生しやすい。
3.銅および銅合金の溶接性
純銅は熱伝導性が良く,溶接熱が急速に母材側に拡散するため,一般に高温の予熱が必要となる。また,溶接金属のなじみが悪く,溶接欠陥を生じやすい。しかし,銅合金は純銅に比べて熱伝導性がかなり低下し,銅と同程度の特性を示すものもある。
銅および銅合金の融点は897~1097℃程度と低く,固相/液相間の温度差が大きいものもあることから,溶接割れを生じやすい。
銅および銅合金は鋼の1.4~1.8倍の線膨張係数を示す。線膨張係数が大きいほど溶接ひずみが大きくなり,拘束が強いと割れを生じやすい。なお,ピーニング(塑性加工)を行うことにより残留応力の開放を図り,割れを防ぐことができる。
銅および銅合金は一般に固相変態がなく,結晶粒が粗大化しやすい。なお,ピーニングを行った後に再加熱すると,結晶粒が微細化し,性能が改善される。
上記のことから溶接に際しては,①開先角度を大きくとる,②仮付けを比較的多くする,③一般に高温予熱・パス間温度をとる,④ピーニングを行うなどの配慮が必要である。
特に溶接においては割れとブローホールが問題となる。
(1) 溶接割れ
溶接時に発生する割れの原因として,凝固割れおよび延性低下割れが考えられる。凝固割れは鉛,ヒ素などの低融点物が存在する場合はもとより,銅合金では凝固温度範囲が広いため特に生じやすい。延性低下割れはキュプロニッケルやケイ素青銅など高温で脆化域が存在する合金に見られる。これらの割れの防止には,溶接時の過熱を防止し,ピーニングを行うことが有効である。
(2) ブローホール
銅中の水素の固溶度には,固相/気相間で大きな開きがあるため,溶接金属中に固溶した水素が凝固過程で水素単独または水蒸気(H2O)の形で発生し,ブローホールの原因となる。特にタフピッチ銅の場合,還元ガス雰囲気で加熱すると酸化物が還元されて水蒸気が発生し,ブローホールが著しい。
参考文献
1)(社)溶接学会編:溶接・接合便覧,丸善(株),(1990)〈渡邊 竹春 / 2012年改訂[温度表記]〉