- 接合・溶接技術Q&A / Q02-03-36
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Qセラミックスと金属との接合においてもインサート金属が大変有効的に使われるそうですが,異種金属間の場合と同じ考え方で選定・適用すればよいのですか。
セラミックスと金属の接合に用いるインサート金属を選定・適用するときの考え方は,異種金属間の接合の場合と基本的に類似な部分も多いが,セラミックスの接合独特の問題点も考慮する必要がある1-3)。現在まで,セラミックスと金属の接合においては,種々のインサート金属が適用された実績があるが,インサート金属(あるいは,インサート材)の示す意味が研究者間でかなりの差異があることから,こでは,図1に示すように分類・定義して述べることにする。すなわち,インサート材は接合過程において,溶融させないもの(固相)と溶融させるもの(液相)に大きく分類される。このうち液相あるいは半溶融になるものは,いわゆるろう材であり,液相インサート材とも称される。ろう付け,液相拡散接合(拡散ろう付)や摩擦接合などに適用される。これらの液相インサート材の選定・適用に関する考え方は,Q5―2―105に詳細を示しているので,ここでは省略する。
一方,固相状態のままのインサート材は,セラミックスと金属の接合性向上を目的としたものと,接合継手の熱応力緩和を目的としたものに分類される。前者は主として固相拡散接合や圧接に用いられ,いわゆるインサート材(厳密には,固相インサート材)と呼ばれるものである。後者は,固相接合のみならず液相接合にも用いられ,固相インサート材や液相インサート材と併用される場合が多い。ここでは,これを特に中間材と呼ぶことにする。いずれにせよ,セラミックスと金属接合用のインサート材に求められる要件(選定・適用の考え方)としては,主としてセラミックスとの接合性(反応性)の向上か,接合体の熱応力緩和のいずれか,あるいは両方であると考えても大きな誤りはない。
セラミックスと金属の接合に適用された主なインサート材を概観すると,表1に示すようにまとめられる。セラミックスとの接合性を向上させるためのインサート材としては,Ti,ZrやAlなどの活性な金属を用いる例が多い。特に,液相インサート材には,活性金属を含む合金が広く適用されている。一方,接合体の熱応力を緩和するためのインサート材としては,WやMoなどの低熱膨張金属を用いる方法と,Cu,Niなどの低弾性率金属(ソフトメタル)を用いる方法に大別される。また,より高度な熱応力緩和を狙った複層中間材4)や傾斜機能中間材5)も開発されている。しかしながら,近年,セラミックスと金属の高性能接合に対する要求から,接合性向上と熱応力緩和を同時に満足するように,中間材を含め固相および液相インサート材を総合的に設計する試み(接合層設計)が行われるようになってきた6)。例えば,窒化物セラミックスと金属の接合に対して,接合層設計を行った事例として,弱活性/活性金属法と低熱膨張金属中間層を併用した接合技術(LE-HD法)が報告されている7-9)。これは,組織解析などの材料学的知見と残留応力解析などの力学的知見に基づき,液相インサート金属組成と中間材の効果的選定を行ったものとして注目される。
参考文献
1)横山ら:金属,8月号,p.65,(1988)2)中橋ら:セラミックス,Vol.30,No.2,p.102,(1995)
3)日経ニューマテリアル,5月11日号,p.41,(1987)
4)岡本ら:日本複合材料学会誌,Vol.12,No.4,p.177,(1986)
5)伊藤ら:粉体および粉末冶金,Vol.39,No.4,p.303,(1992)
6)金:溶接学会誌,Vol.65,No.4,p.319,(1996)
7)Y.C.Kim et al.:Trans.JWRI,Vol.22,No.1,p.121,(1993)
8)才田:大阪大学学位論文,(1990)
9)中尾ら:溶接学会論文集,Vol.12,No.3,p.419,(1994)
〈才田 一幸〉