- 接合・溶接技術Q&A / Q02-03-39
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Q炭素鋼とねずみ鋳鉄および球状黒鉛鋳鉄との溶接において,継手の信頼性を上げるための留意点について教えて下さい。
鋳鉄は成形性,被削性,振動吸収性,耐摩耗性など多くの優れた特性があるため,工作機械をはじめ各種産業機械に広く用いられている。鋳鉄と他の金属との溶接において,従来の溶融接合法では鋳鉄の炭素含有量が多いので局部的な急速加熱,急速冷却の熱サイクルを母材に与えると,溶接金属部には白銑化,熱影響部にはマルテンサイト化を生じ,延性や靱性の低下をもたらし,溶接性が極めて悪い状態となる1)。そのため,接合界面に被接合材料よりも融点が低く,SiやBなどを含むNi系の自溶性合金粉末を試験片の端面に溶射し,その端面を突合せ拘束した後,図1に示すように大気中で高周波誘導加熱装置を用いて接合部を温度制御しながら加熱冷却し,溶射皮膜を再溶融凝固させることによって良好な接合を得ることができる2)。
そこで図2はFCD600とSS400の接合において,最高加熱温度に達するまでの時間,すなわち昇温時間と最高加熱温度での保持時間を変化させて接合を行った場合の引張試験結果を示したものである。これより昇温時間50秒,保持時間40秒で最も接合強度が高く約500MPaと母材強度の80%以上を示している。さらに最高接合強度における接合部のミクロ組織観察結果を写真1に示す3)。図よりインサート材である自溶性合金の残存がほとんどなく,良好な接合部となっている。
このように,鋳鉄が関わる溶接においては最高加熱温度を制御し,さらに冷却をゆっくりすることが重要である。
参考文献
1)田村博:鋳鉄の溶接,溶接学会誌,第38巻第2号,pp.117-127,(1969)2)屋良秀夫,生田明彦,藤木大輔:溶射皮膜をインサート材とした鋳鉄の固相接合,溶接学会論文集,第11巻第4号,pp.474-478,(平成5年11月)
3)屋良秀夫,生田明彦:溶射皮膜法による鋳鉄および鋳鉄と炭素鋼の接合,高温学会誌,Vol.20Supplement,pp.319-326,(1994)
〈屋良 秀夫〉