接合・溶接技術Q&A / Q04-01-06

Q各種鋼材によって低温割れの発生のしやすさは違いますか。個々の鋼材の低温割れ防止方法も教えて下さい。

高張力鋼に限らず,ほかの鋼材でも低温割れが生じることがある。表1に各種鋼材の化学組成の例を示す。

(1) 高張力鋼

以前は高張力鋼は低温割れが生じやすく,高い予熱を行うのが常識であった。最近は,490N/mm2級高張力鋼はTMCP(熱加工制御)による低炭素当量(Ceq)化が進み,図1に例を示すように低温割れ感受性は大きく低下した1)。780N/mm2級鋼も微量元素のコントロール,熱処理技術の向上により低炭素当量(Ceq,PCM)が進んだ。

(2) 高炭素鋼

S25C~S55Cの機械構造用鋼は溶接用鋼材ではないが,実際には溶接が多く行われる。S25C,S35Cはそれほど低温割れ感受性が高くはないが,例えばS45Cは炭素含有量が≧0.45%であり,炭素当量(Ceq)の例は0.63%と昭和30~40年代のHT780並みであり,高い予熱温度を必要とする。その求め方は一般の炭素鋼・高張力鋼に対する考え方(Ceq)が適用できる。しかし,PCMは適用範囲外である。

(3) 耐熱鋼

耐熱鋼は,合金含有量が少ない0.5%Mo鋼などの低温割れ感受性は一般炭素鋼と同様に評価することができるが,11/4Cr-0.5Mo鋼や21/4Cr-1Mo鋼,3Cr-1Mo鋼および9Cr鋼などでは合金量がCeqの適用範囲(Cr<1.0%,Mo<0.6%)およびPCM式の適用範囲(Cr≦1.20%,Mo≦0.7%)の両方とも逸脱する。図2に21/4Cr-1Mo鋼および改良型9Cr-1Mo鋼の拘束割れ試験結果を示す2)。両鋼種とも熱影響部が非常に硬化しやすいため高い予熱温度が必要であるが,とくにCr量の多い9Cr-1Mo鋼の方が割れ防止予熱温度は低い傾向となった。その理由は,冷却過程でマルテンサイト変態による変態膨張によって溶接部の残留応力が低下したためとされている。さらに,後熱を併用して予熱温度を低減する方法もよく採られる。Cr-Mo鋼は厚板が多く,多層溶接金属の横割れ防止も重要である。横割れは最終層表面直下の層に生じやすいとされている。図3に水素量と割れ防止予熱パス間温度の関係を示す3)

(4) 低温用鋼

降伏点が235N/mm2の軟鋼クラスのアルミキルド鋼は成分系に軟鋼と同じで,通常低温割れのおそれはない。降伏点が325~360N/mm2クラスでは,鋼材および溶接材料ともに490N/mm2級高張力鋼をベースに成分設計され,鋼材の熱処理は焼きならしまたは焼入れ焼戻し鋼を経てTMCP化された。とくにTMCP鋼では低温じん性の確保のためにさらに低Ceq化が図られており,通常は予熱不要である。低温用鋼は590~780N/mm2級鋼も使用されており,成分系は溶接材料共に常温用にベースとしているため低温割れ感受性は同様に扱える。

LPGタンクなどでとくに高いぜい性き裂停止特性が要求される場合に,2.5%Ni鋼をはじめとしてNi添加鋼が使用され,さらに使用温度が低いLNGタンクは9%Ni鋼が使用されている。斜めY形溶接割れ試験の結果,Ni鋼はCeq,PCMともに低いため予熱なしでも割れは生じていない。

(5) 鋳鋼

鋳鋼は基本的に圧延鋼材の成分系をベースに設計される。したがって,上記圧延鋼材に対する考え方が適用できる。

 

 

 

参考文献

1)日本造船研究協会第193研究部会:新製造法による50キロ級高張力鋼の有効利用に関する研究,(1983)

2)H.Okabayashi, R.Kume:Effect of Post-heating on Weld Cracking of 9Cr-1Mo-Nb-V Steel Trans. Japan Welding Society, Vol.19,No.2,(1968)

3)伊藤,中西,勝本,小溝,瀬田:圧力容器用極厚鋼板の溶接施工―溶接金属の横割れ防止について―,住友金属,Vol.31,No.2,(1979)

〈中西 保正〉

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低温割れ

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鋼材別による低温割れ

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