- 接合・溶接技術Q&A / Q04-01-34
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Qスラグ巻込みが生じやすい溶接と防止策について教えて下さい。
スラグ巻込みは日本工業規格(JIS Z 3001-4:溶接用語-第4部:融接不完全部)の定義では,「溶接金属に巻き込まれたスラグ」とされている。その発生原因は融合不良(Q4-1-29参照)とほぼ同様であるが,欠陥内部にスラグが存在することだけが異なっており,次のような溶接で発生しやすい欠陥である(図1)。
① 狭開先溶接部
② 横向溶接での上側開先面
③ レ型開先の立板側開先面
④ 肉盛溶接部
狭開先溶接での開先壁,横向溶接の上側開先やレ型開先の立板側開先においてスラグ巻込みが発生しやすいのは,ビード形状が凸状となった場合に止端部のスラグが剥離しにくいためである。加えて,狭開先溶接の場合は開先壁方向への溶込みが浅くなりやすく,止端部の溶込みが不十分になりやすいのも一因である。また,肉盛溶接では,溶込みを浅くしようとする施工条件の場合にスラグ巻込みが多く見られる。
さらに,ソリッドワイヤによる多層溶接では,被覆アーク溶接棒やフラックス入りワイヤに比較してスラグ量が少ないため,何パスかを連続して溶接することがある。この場合,スラグが厚く残ったまま溶接するとアーク不安定が生じ,スラグ巻込みや融合不良が発生しやすくなる。この他に,アークが不安定な溶接開始時や,溶融池が垂れやすい傾斜下進溶接でも発生しやすいので注意を要する。
このようにスラグ巻込みは前層,または前パスのスラグ除去が不十分であることに加えて,融合不良の発生が重なることが主原因である。したがって,その対策は融合不良を防止すること(Q4-1-30参照),溶接前にスラグを入念に除去することなどが重要である。そしてスラグの除去を容易にするためには,ビード形状としてオーバーラップやアンダカット,極端な凸状ビードとならないような溶接条件を選択したり,スラグ剥離性の良い溶接材料を用いる,あるいはシールドガスを変更して(アルゴンガスの混合比率を高める)スラグの発生量を減らすことも有効な手段である。
〈佐藤 正晴 / 2012年改訂[字句修正]〉