- 接合・溶接技術Q&A / Q04-02-08
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Q溶接継手の強度は溶接金属の強度と考えてよいですか。
構造用鋼の突合せ溶接継手の溶接線に直角方向に荷重が作用する場合では,溶接金属および熱影響部の強度は母材よりも高く,破断は通常母材部で生じ,延性強度は母材の強度と同等かそれ以上と考えられ,継手効率(=溶接継手の強度÷母材の強度)は100%とみなすことができる。
しかし,高張力鋼やアルミ合金の大入熱溶接あるいは加工硬化したオーステナイト系ステンレス鋼や熱処理アルミ合金の溶接では,熱影響部が軟化したり,溶接金属の強度が母材に比べて低い場合が生じる。このような場合は,継手効率が80~70%あるいはそれ以下になることがある。軟化部あるいは溶接金属の強度が母材に比べて低い場合でも,その軟化部あるいは低強度溶接金属部の幅が板厚に較べて十分狭ければ,破壊は溶接金属部で生じるにも関わらず継手強度は母材と同等になる場合がある。これは,塑性変形が強度の高い母材部分によって拘束されるためである。ただし,破断延性は母材に較べて劣る。
突合せ継手の溶接線方向に荷重が作用する場合は,延性の最も低下している部分(例えば熱影響硬化部)に最初のき裂が発生して破断するので,破断延性は母材のそれよりも低下する。継手の強度は各部分(板幅,溶接金属の幅)の応力・ひずみ曲線と各部分の載荷断面積の割合で決まり,近似的に(1)式で与えられる。
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(1) |
ただし,σB:母材の強度,σw:溶接金属の強度,
m=板幅/溶接金属の幅
軟鋼の継手が延性破壊する場合や広幅継手の場合には,強度は母材のそれにほぼ等しくなり,溶接金属の強度は,継手の強度にほぼ無関係となる。
すみ肉溶接継手の強度は,のど断面当たりの強度で表す。
σf=P/(h×l) |
(2) |
ただし,P |
:継手の降伏荷重または破壊荷重 |
h |
:のど厚 |
l |
:溶接長さ |
式(2)によって表したすみ肉溶接継手の降伏強度および最大強度は,次式で与えられる。
σf=α・σw |
(3) |
ここで,σw:溶着金属あるいは溶接金属の引張降伏点または引張強度,α:溶接継手の種類により決まる係数である。
式(3)の係数αの値を表1に示す。また,各種すみ肉溶接継手における強度比を表2に示す。
部分溶込み溶接継手ののど厚は,図1に示すようにルート部からすみ肉表面への最短距離で定義する。部分溶込み溶接継手の引張強度σTは,溶込み深さをp,脚長をfとすると,p>fの場合には次式で算出できる。
任意のθfに対して,
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(4) |
θf=45°(等脚すみ肉)の場合,
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(5) |
σTW:溶接金属の引張強さ
式(4)および(5)でわかるように,部分溶込み溶接継手の強度は,溶込み深さPに依存する。
式(5)より引張りを受ける部分溶込み溶接継手の耐荷力を求めると,
単位溶接長さ当たりの継手の耐荷力
σT=×(のど厚)×2
となり,母材の耐荷力はσTB×(板厚h)であるから,継手の耐荷力を母材の耐荷力と等しくするための条件として次式が求められる。
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(6) |
σTB:縦板母材の引張強さ,h:縦板母材の厚さである。式(6)はp>fの範囲で適用できる。
式(6)から継手効率を100%にするために必要な溶込み深さと脚長が求められる。
ただし,溶接金属の強度が母材の強度に比べて極端に大きい場合は,横板の熱影響部に沿って剥離破壊を生じるので,この破壊を防止するために
2(p+f)σTbt≧h×σTB |
(7) |
σTbt:横板の板厚方向引張強さ
を満足させておく必要がある。
図2は,非対称部分溶込み十字溶接継手の強度に及ぼす継手寸法の影響を調べた結果である。非対称性のために溶接部には曲げと引張りが作用するので,非対称性が大きくなると,継手強度は低下する。
〈林 誠二郎〉