接合・溶接技術Q&A / Q05-01-01

Q溶融金属中に水素,酸素,窒素などのガスはどのようにして入るのですか。また,それを防ぐにはどのようにすればよいのでしょうか。

溶融金属,特に鉄(Fe)やアルミニウム(A)のような金属には,固体に比べて多くのガス成分(水素,酸素,窒素)が溶解する場合が多く,溶接のような高温度で短時間の反応では溶融金属に多くのガス成分が溶解し(吸収され),放出までの時間が短いために吸収されたガスの多くが溶接金属中に残留する場合が多い。(チタン(Ti)やジルコニウム(Zr)のような金属では,低温度程多くの水素を固溶し,溶融金属よりも固体金属に多くの水素を固溶する例もある。)

溶接部に吸収された水素は,割れや気孔などの溶接欠陥の原因となり,機械的性質に重大な影響を及ぼす場合があるので特に注意が必要である。水素源としては,被覆剤やフラックス成分の有機物,水分および結晶水,あるいはシールドガス等に含まれる水蒸気や材料表面に付着した油脂類,吸着した水分等が考えられるが,これらが高温度の溶接過程で分解して水素を生成し溶接金属に水素が吸収されるのである。したがって,溶接部への水素の吸収量を最小限にするためには,使用材料をよく乾燥させることや材料表面を清浄にすることが重要である。また,鋼の被覆アーク溶接では,低水素系の溶接棒を用いるなどの溶接材料の選択も重要である。

溶接金属に吸収された酸素は,気孔や非金属介在物などの原因となるほか,溶接金属組織にも影響を及ぼし機械的性質に影響するので重要である。酸素源としては,水素源になると考えた各種水分などの他に,被覆剤やフラックス成分中の各種酸化物やシールドガスに添加される二酸化炭素(CO2)および酸素(O2)ガスも考えられる。このように酸素は溶接プロセスに深く関わっているために,鋼の溶接金属には多くの酸素が含まれることが多く,酸素量が多いことが鋼溶接金属の特徴とも言われる。このため鋼溶接金属では,酸素量を調整するために,酸素との親和力の強い元素であるシリコン(Si)やマンガン(Mn)などの脱酸元素が材料中に添加されるのである。

溶接金属に吸収された窒素は,溶接金属の機械的性質を劣化させる場合が多く,また気孔の原因となる場合もある。窒素源は,ほとんどが空気中の窒素と考えられる。したがって,溶接金属への窒素の吸収を防ぐには,溶融金属を空気から遮断することが重要である。しかし,最近では材料開発に窒素を積極的に利用しようとする試みもある。窒素が強力なオーステナイト安定化元素であることから,ステンレス鋼のニッケル(Ni)を窒素で置き替えたり,耐食性や機械的性質の向上を目的としてステンレス鋼に多量の窒素を含有させた高窒素ステンレス鋼などの開発がその例である。

〈佐藤 嘉洋〉

このQ&Aの分類

凝固

このQ&Aのキーワード

溶融金属へのガス溶解

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