接合・溶接技術Q&A / Q05-01-03

Q溶接により,鋼材はどのように変質するのですか。

材料に溶接が行われると,溶融境界部から母材に向かって,材料のほぼ融点に近い高温度に加熱される領域から,ほとんど熱の影響を受けない領域まで,連続的に加熱される温度は変化する。この領域内で顕微鏡組織に変化が生じたところを溶接熱影響部という。

図1は,鋼にアーク溶接を行った時の溶接熱サイクルとFe-C系状態図の低炭素部分を併せて示したものである。溶接熱影響部の組織は,最高加熱温度が①~④に加熱された場合には,高温度に加熱されるほど結晶粒は粗大化するが,A3変態線直上の③に加熱されると微細化が生じる。最高加熱温度が④の場合には,パーライトが層状組織から粒状化組織へと変化する。また,高Cマルテンサイトが生じることもある。⑤以下の温度に加熱された領域では,組織の変化は生じない。最高加熱温度が①のような高温度に加熱された場合の溶接熱影響部の組織は,鋼材の化学成分と冷却速度によって大きく変化するが,これは溶接用連続冷却変態図(CCT図)2)を利用することにより,組織と硬さを推定することができる。

このような組織変化に伴って,硬さおよびじん性が変化する。すなわち,結晶粒が粗大化する領域では硬化しやすく,割れも生じやすい。また,図2に鋼の溶接熱影響部の衝撃値の分布を定性的に示すが,軟鋼および調質高張力鋼ともに結晶粒が粗大化する領域では,じん性の劣化が生じる。軟鋼の低温部におけるじん性劣化の原因は,時効現象によるものである。

参考文献

1)(社)溶接学会編:溶接・接合技術,産報出版(株),p.154,(1994)

2)(社)溶接学会編:溶接・接合技術,産報出版(株),p.158,(1994)

3)(社)溶接学会編:溶接・接合技術,産報出版(株),p.162,(1994)

〈西尾 一政〉

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鋼材の変質

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