- 接合・溶接技術Q&A / Q05-01-04
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Q溶接割れはどのようにして起こるのですか。
溶接割れの分類法の1つとして,溶接熱サイクルにおける割れの発生時期により大別する方法があり,①融点近傍,②室温近傍に冷却後,③冷却後の再加熱時,に発生する割れをそれぞれ高温割れ,低温割れ,再熱割れと呼んでいる。
(1) 高温割れ
溶接時に融点近傍もしくはそれ以上に加熱された領域すなわち,溶接金属と溶接熱影響部(以下HAZ)に生ずる。その発生機構からは,凝固割れ,液化割れに大別される。凝固割れは文字通り,凝固時に溶接金属に発生する割れであり,図1に示すように,固相の成長が進んで,残った液相が固相間に薄い膜状となった段階で,溶接熱応力を受けることにより固相間が分離されて,生ずると言われている。凝固が開始する温度(液相線,厳密には図1の②に相当する固相同士が接触を開始する温度)と凝固が終了する温度(固相線)との差が大きい材料ほど,固相間に薄い液相が存在する状態が長く続くため,凝固割れが起こりやすくなる。
合金元素が凝固割れに及ぼす影響は,図1に模式的に示す状態図からある程度の推定が可能である。すなわち,図1に示すような状態図をもつ合金系では元素Xが増加すると,ある量までは固液相線の間隔(ΔT)が拡大し割れ感受性が増大するが,さらに元素Xが増加すると割れはかえって生じにくくなる。ただし溶接金属においては,凝固偏析があるため,平衡状態図から推測される以上に,固相線が低下しやすくなる。鉄鋼材料,特にオーステナイト系ステンレス鋼では,ΔTを拡大させて割れ感受性を高くする元素としてP,Sが知られており,これらの低減が材料面からの対策として採られている。また,施工面からは,溶接入熱を低減して,固相間に薄い液相が残存する期間を短くするとともに,溶接熱応力の影響を受けやすいビード形状(幅に比べて深さの大きい断面形状)を避ける対策が採られている。
HAZに生ずる液化割れについても,割れ発生の原理は上述の凝固割れと同じである。すなわち,固相線温度を低下させる元素が偏析した粒界は,HAZにおいて局部溶融し,固相間に存在する薄い液相となり,これに溶接熱応力が加わると割れとなる。
(2) 低温割れ
溶接部が室温に冷却された後に生ずる。溶接終了後数日経ってから生ずる場合もあり,遅れ割れとも呼ばれる。低温割れは,図2に示すように,硬化組織,水素,拘束応力の3つの要因が同時に存在した際にのみ生ずる。溶接が終了した直後には,過飽和になった水素が存在することが多く,それらが応力の高い箇所に拡散集積し,割れに至ると一般的に考えられている。鉄鋼材料では,割れは硬いマルテンサイト組織で特に生じやすい。図3は3つの要因の影響を定量的に示した例1)であり,Pcの最初の9項は硬化能,第10項は拘束応力,最後の項は拡散性水素量の影響を示しており,Pc値が高い程,割れ防止に必要な予熱温度は高くなる。したがって,割れ防止には,三因子のうちの少なくとも1つの影響を除去または低減することが有効であり,例えば,予熱,後熱は主に水素の放出の促進に,化学組成の変更による材料の焼入性低減は硬化組織の防止に,継手形状の変更は拘束応力の緩和にそれぞれ寄与し,割れ防止対策となりうる。
(3) 再熱割れ
溶接部が再加熱された際に発生する割れを意味し,溶接後熱処理(PWHT)により主にHAZの粗粒域に発生する割れと,多層溶接での次層以降の溶接熱サイクルにより,主に溶接金属に起こる割れに大別される。Cr-Mo鋼のHAZにおける溶接後熱処理時の割れや高Ni耐熱合金の多層溶接時の溶接金属での割れがその例として知られている。
いずれの割れも,粒大化した粒界で生じやすい。脆弱化した粒界にその固着力を上回る応力が負荷されることによって,粒界が剥離することが割れの原因であると言われている。粒界が脆弱化する原因としては,P,S等の不純物元素の粒界への偏析(Cr-Mo鋼)や,低融点相による粒界の溶融(高Ni合金)が主であり,粒界への応力負荷を高める要因としては,析出による粒内強化がある。したがって,割れの防止には,粒界脆化と応力集中の抑制が有効であり,施工面からは継手形状の適正化,ビード止端部の整形等による応力の低減が,材料面からは,P,S,Sn,Sb,Asなどの不純物元素の低減が対策として採られることが多い。
参考文献
1)伊藤慶典,別所清:鉄と鋼,Vol.58,p.1812,(1972)〈小川 和博〉