- 接合・溶接技術Q&A / Q05-01-05
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Q溶接欠陥にはどのような種類があり,それぞれどのようにしてできるのですか。
代表的な溶接欠陥の種類とその発生原因を以下に種類別に示す。
(1) ブローホール,ピット
ブローホールとは,窒素,一酸化炭素,水素等のガス成分や亜鉛など金属蒸気等が取り込まれることにより発生する溶接金属内の気孔である。ブローホールはシールド不良,脱酸剤の不足,母材開先面の錆や油分,メッキやプライマー等の表面付着剤,溶接材料中の水分等が原因とされている1)。ピットとブローホールは同一現象であるが,一般にビード表面に開口しているのものはピット,溶接金属内にトラップされたものはブローホールと呼ばれている。ピットの一例を写真1に示す。
(2) 低温割れ
低温割れとは溶接中には発生しないが,溶接後冷却してから発生する割れであり,割れ発生に要する時間は溶接後2~3日以内であることが多い。低温割れの要因は,硬化組織,水素および引張り応力の3つであり,これらが全て揃った場合に発生するとされている1)。例えば,高張力鋼を過小な溶接入熱で溶接した場合には,溶接金属およびHAZに硬化組織を生じる。硬化組織においては水素が集積して,局所的に延性が低下する。また,この部分には熱収縮等による引張り残留応力が作用することが多く,大きな塑性変形を伴わずに割れが発生する。この割れ防止には予熱,直後熱を行うことや,溶接材料を乾燥して脱水素処理を十分に行うことが有効である。
(3) 高温割れ
高温割れとは,溶接中あるいは溶接終了直後に発生する割れである。高温割れは割れが発生する時期,場所によって凝固割れ,延性低下割れ,液化割れ等に分類される。高温割れの主な原因は成分偏析による凝固温度の低下と溶接時に発生する収縮応力である。例えばC,S,P等のように偏析係数が大きく凝固温度幅を拡大する元素の過剰な添加は,高温割れを助長する2)。高温割れは低温割れと異なり,溶接後ある時間を経てから発生することはなく,また,破面を走査型電子顕微鏡で観察するとデンドライトや粒界が認められる。対策としては,不純物元素の低減,溶接速度の低速化,あるいは低入熱化等が有効である。
(4) 融合不良
融合不良とは,溶融境界の一部に未溶融部分が残存することである。融合不良の原因は,電流や電圧の不足,または過大な溶接速度により,十分な溶込みが確保できないことである。この欠陥の防止には,電流および電圧を上げ溶接速度を低下すること,溶融金属を先行させない溶接条件の採用等が有効である1)。
(5) アンダーカット
アンダーカットとは,溶接ビード止端部に存在するノッチ状にえぐれた欠陥である。溶接電流や溶接速度が過剰に高すぎることが主な発生原因であり,アークでガウジングされた部分を溶融プールが埋めきれない場合に発生する。対策としては,電流,溶接速度の低減が有効である1)。アンダーカットの一例を写真2に示す。
(6) オーバーラップ
オーバーラップとは,母材表面にあふれ出た溶融金属が,母材を溶融することなく冷接することにより生じる鋭いノッチ状の欠陥である。対策としては溶融金属の先行を回避し,電流を下げ,溶接速度を上げることが有効である1)。
(7) スラグ巻込み
溶接金属中にスラグが残留したものをスラグ巻込みと言う。この原因については未解明な部分が多く確定的な説明はできないが,溶融金属の流動,スラグの粘性,アークの安定性等が関連していると考えられている。また,多層盛り溶接では,特にアンダーカットや凸形状の溶接ビード止端部にスラグが残留しやいため,これらがスラグ巻込みの原因となる場合も多い。対策としては,前パスのスラグを十分に除去すること,運棒操作の適正化等が有効である1)。
参考文献
1)百合岡信孝,大北茂:鉄鋼材料の溶接,産報出版(株),pp.155,158,163,(1998)2)松田福久:溶接冶金学,(株)日刊工業新聞社,p.158,(1972)
〈大北 茂〉