- 接合・溶接技術Q&A / Q05-01-06
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Q溶融溶接における溶接金属の凝固現象の一般的な特徴および溶接条件によって凝固形態がどのように変化するのか教えて下さい。また,その理由等を冶金学的に説明して下さい。
溶融溶接の定常状態における凝固は,マクロ的には,図1に示すように,溶融池を取り囲む固体(溶融境界)が,溶接アークに伴って移動する現象である。凝固晶は,熱影響を受けて粗粒化した溶融池近傍の固体の結晶方位を維持しつつ(エピタキシャル),溶融池の最高温度点(アーク位置)に向かって成長する。凝固の初期は除けば,この場合のエピタキシャル成長する凝固晶は,後述のように,成長方位の揃ったデンドライト状(あるいはセル状)の結晶の集合体であり(図2),形態的に柱状晶と呼ばれる。柱状晶の成長速度は,結晶の優先成長方向(立方晶金属の場合は<100>方向)と最大温度勾配方向が一致する場合に最大であり,その不一致が大きくなるほど凝固遅れを生じる。したがって,その不一致が小さいものは選択的に成長し,不一致の大きい柱状晶は次第に淘汰される。
溶接,すなわちアークの移動が比較的低速の場合は,柱状晶は順次向きを変えアークを追うように成長し,溶接部中央では溶接線に平行な柱状晶成長も見られるが(図1(a)),高速になるにつれ,柱状晶の成長方向のアークへの追従が遅れ,溶接速度が非常に大きい場合には,柱状晶は溶融境界での凝固開始時の成長方向を変えることなく成長し,溶接部中央で突合せ凝固に至る(図1(c))。
これに対応して,溶融池形状は,低速溶接の場合は楕円形であるのに対し,高速になるにつれて放物形,涙滴形へと遷移する。溶融池形状が涙滴形の場合,柱状晶の凝固遅れの結果,溶融池のテール部分の溶融金属は相対的に過冷度が大きく,合金系によっては,溶接部中央で柱状晶の突合せ以前に等軸晶(自由晶)の生成傾向が増加する。柱状晶凝固に起因する集合組織の回避ならびに凝固粒の微細化に等軸晶凝固は有効であるが,等軸晶生成の機構は完全に解明されていない。一般的には,凝固速度の増加による空間的な過冷域の増加,融点降下効果の大きい合金元素の含有による固液界面での組成的過冷域の増大などが有効である。
一方,ミクロ的には,前述のように,凝固の形態はほとんどの場合,デンドライト状(あるいはセル状)である。デンドライト凝固は,合金において主に固液界面前方の組成的過冷ゆえに進展するものであるが,同時に側面方向には,主軸の成長および側枝の発達(固相率の増加)に伴い,固液間の溶質元素の分配,分布を生じる。これがミクロ偏析であり,デンドライト間で溶質濃化,第二相の晶・析出をもたらす。デンドライトの間隔(スペーシング)ならびに側枝の発達は,溶接入熱の増大とともに増加するが,ミクロ偏析の程度は,一般に実用に用いられている溶接入熱の範囲では入熱に大きく影響されない。
参考文献
1)J.H.Devletion, W.E.Wood:Metals Handbook, 9th ed.,Vol.6,ASM,p.29,(1983)〈小関 敏彦〉