- 接合・溶接技術Q&A / Q05-01-07
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Q溶接金属に発生するいろいろな欠陥が凝固現象とどのように関連しているのか教えて下さい。また,溶接金属の諸性質とその関連も教えて下さい。
溶接金属に生ずる欠陥には,図1に示すような気孔,溶接割れ,銀点,スラグ巻込み,溶込み不良,融合不良および形状不良(アンダカット,オーバラップ,ビード外観不良)などがある。いずれの欠陥も溶接金属で発生するため,程度の差はあるが凝固現象に関連していると言える。しかし,これらの欠陥で特に凝固現象との関わり合いが深いのは,気孔と溶接割れである。溶接金属は一般に結晶粒が柱状を呈しており,溶質元素の偏析を伴った凝固組織となっている。凝固の際,固液分配係数が1より小さい溶質元素は,液相中に排出され,その結果,気孔2)が形成されたり,残留融液の融点が低下し凝固割れ3)の原因となったりする。
ガスを溶解した溶接金属では,温度の低下とともに次第にガスが放出され,凝固時に急激に多量のガスが凝固界面に放出される。これらのガスが気泡となり浮上して大気中に逃げるが,逃げ遅れて凝固した金属内に気孔となって残留する。
ガスは,溶接金属内での化学反応や溶接中に大気中から混入したものであり,主たる成分は,鉄鋼材料では一酸化炭素,アルミニウム合金では水素,ニッケルなどでは窒素と考えられる。
低合金鋼,ステンレス鋼,高合金などの凝固割れの原因となるP,Sなどの不純物元素は,固液分配係数が極めて小さいため凝固粒界に偏析しやすく,しかも融点を低下させる。したがって,凝固割れを防止するには,これらの不純物元素の低減が有効である。
溶接金属の引張強さを母材レベルにすることは比較的容易であるが,良好なじん性を確保するのは必ずしも容易ではない。溶接金属の最終凝固部または柱状晶間には比較的多くの不純物が偏析し,延性とじん性が低くなりやすい。しかしながら,鋼の多層盛溶接では前層ビードが次層の溶接熱で再加熱されるので,凝固組織の一部が微細な熱処理組織になりやすく,前層が全て微細化されて溶接金属の伸びおよびじん性が著しく向上する場合がある。しかし,特に低温で高じん性が要求されるとき,あるいは大入熱溶接で結晶粒が粗大化しやすいときは問題である。
参考文献
1)鈴木春義,田村博:溶接全書1 溶接金属学,産報出版(株),p.106,(1978)2)松田福久:溶接冶金学,(株)日刊工業新聞社,p.76,(1973)
3)同上,p.143
〈篠崎 賢二〉