接合・溶接技術Q&A / Q05-01-09

Q被覆剤,フラックスはなぜ必要なのですか。

一般に,被覆剤とは被覆アーク溶接棒の心線の周囲に塗布されたさまざまな原料粉末(フラックス)を指し,溶接ワイヤでフープなどで成型される外皮金属の中に充填される原料粉末や,サブマージアーク溶接に用いる粉末をフラックスと呼んでいる。

被覆剤やフラックスは,アーク溶接材料にとって必須の原料で,例えば細い鉄の棒だけで(シールドガスも流さずに)アークを発生させたとしても,アークを安定的に維持し,連続した溶接ビードを形成することは非常にむずかしい。そのビードはブローホールなどの欠陥だらけで,溶接としての用をなすことはできない。

アーク溶接法に共通した基本要件として,①アークを安定的に維持すること,②溶融金属を大気から保護する(シールドする)こと,③溶接金属の機械的性能を満足することが必要である(表1)。フラックスや被覆剤はこれらの基本要件を満たすための重要な役目を担っている。

アークを持続させるためには溶接電源や機器が正常に作動することは当然であるが,被覆剤やフラックスに酸化チタンや珪酸カリ,カリ長石などを添加するとアークはより安定するようになる。シールド性については,被覆アーク溶接の場合,被覆剤中の炭酸カルシウムやセルロースが熱分解してシールドガスが発生する。さらに酸化チタンや硅砂などの造滓剤が溶接金属の表面にスラグを形成し,シールド効果を高めたりする。同時に,このスラグはビードの形状を整え,表面を滑らかにする役目も果たしている。

被覆剤,フラックスのもう1つの重要な働きは,溶接金属の機械的性能を所定の値とするための化学反応を起こさせたり,合金元素を添加することである。アーク溶接中,高温の溶融池の中では金属や気体との間でさまざまな化学反応が極めて短時間内に行われる。被覆剤やフラックスの中にはFe-Si(フェロシリコン),Fe-Mn(フェロマンガン)というような脱酸剤が含まれており,溶融池が凝固するまでの間に,酸素に対する親和力がFe(鉄)より大きいこれらの元素(SiやMn)によって酸素が取り除かれる反応(脱酸反応)が起き,溶融金属の精錬が行われる。

また,鋼種によってはNi,Cr,Moなどの合金元素の酸化・還元反応があり,機械的性能を満足させるための元素が溶接金属中に取り込まれる。

表2に被覆アーク溶接棒の被覆剤の主な作用と原料例を示す。

〈佐藤 正晴 / 2012年改訂[一部修正]〉

このQ&Aの分類

化学反応

このQ&Aのキーワード

被覆剤,フラックス

Q&Aカテゴリ一一覧