- 接合・溶接技術Q&A / Q05-01-10
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Qシールドガスは,なぜ必要なのですか。また,シールドガスが無いとどうなるのですか。
シールドガスの役割は,溶接中に溶融金属と反応を起こさないようなガスをアークの周辺に流し,溶融金属と空気との接触を断つことである。空気の成分は約80%の窒素ガスと約20%の酸素ガスであるから,これらのガスと溶融金属が反応しないようにすることが,シールドガスの役割と言える。また,空気中の湿気による水素の侵入から溶融金属を護ることも役割の1つである。シールドは英語のShield(保護する)からきており,シールドガスは文字通り空気から溶融金属を護っているのである。したがって,シールドガスが無いと溶融金属は空気の成分と容易に反応を起こすのである。
図1は,鋼板をシールドガスを用いないで,アーク溶接したときの溶接ビードのX線透過写真である。溶接ビードには多数の気孔があり,溶接ビード周辺にはスパッターも多く観察される。この場合には,空気との反応により溶融鋼に多くの窒素と酸素が溶解し,冷却・凝固の過程でガス成分の溶解度が急に小さくなるためにN2ガスやCOガスとなり気孔を生成したと考えられる。
このように,シールドガスが無いと,空気中の窒素,酸素が溶融金属中に溶解し,気孔などの溶接欠陥の原因となることがわかる。従って,シールドガスの成分は重要であり,一般的には溶融金属と化学反応を起こさないアルゴン(Ar)やヘリウム(He)のような不活性ガスが用いられるが,溶接性やコストを考えて二酸化炭素(CO2)や酸素(O2)ガスを混合することもある。アルミニウム(Al)やチタン(Ti)などの活性な金属を溶接する場合には,シールドガスにアルゴンやヘリウムのような不活性ガスを用いなければならない。鋼やステンレス鋼の溶接ではアルゴンやヘリウムのような不活性ガスに加えて二酸化炭素や酸素ガスを混合する場合もある。二酸化炭素をシールドガスとして用いる場合には,
CO2=CO+1/2O2
のような反応により酸素の供給源となるので注意が必要である。しかし,溶接材料にはシリコン(Si)やマンガン(Mn)のような脱酸元素が多く添加されており,溶接金属の酸素量を調整しているのである。
〈佐藤 嘉洋〉