接合・溶接技術Q&A / Q05-01-21

Q低合金鋼の多層盛溶接を行う場合,溶接熱影響部の靱性はどうなるのでしょうか。また,この場合の靱性の適当な評価方法を教えて下さい。

(1) 低合金鋼多層溶接熱影響部の靱性

鋼多層溶接継手では,熱サイクルが多重に作用するために熱影響部は複雑な組織形態を呈し,母材に比べて靱性の著しく劣化した領域が存在することがある。この脆化域は寸法がサブmmのオーダでLBZ(Local Brittle Zone)と呼ばれる。

図1に50~60キロ級低合金鋼の多層溶接熱影響部の基本的靱性特性をノルマ鋼の場合と比較して模式的に示す1,2)。HAZ粗粒域(CGHAZ)のうちでも後続の熱サイクルでACl変態点とAC3変態点の二相温度域に再加熱された領域(ICCGHAZ)の靱性劣化が一般に最も著しい。靱性劣化の原因としては,①溶接熱サイクルによる結晶粒の粗大化,②脆化組織MA(Martensite Austenite)の生成,③HAZ粗粒域の硬化などが挙げられる3-5)

LBZは次のような特徴をもつ6)

① LBZの靱性は溶接入熱と鋼材組成に支配される。

② 1つのLBZは大きなものでも1~2mmで,多層溶接継手ではLBZが板厚方向に離散的に存在する。

③ LBZは寸法が小さいにも関わらず,脆性破壊の発生起点となりやすい。

④ 後続の溶接熱サイクルによって約450℃以上のテンパーを受けると,MAがフェライトとセメンタイトに分解して,図2に示すように靱性が回復する傾向を示す。

LBZからの脆性破壊発生が直ちに構造全体の不安定破壊につながるとは限らないが,最近では,鋼材設計面と溶接施工面からLBZを生じにくくする手法(LBZフリー技術)が開発されている7-10)

(2) 多層溶接熱影響部の破壊靱性評価法

鋼多層溶接熱影響部の靱性は,破壊靱性試験によって評価する。破壊靱性試験の方法は試験目的

① 実構造部位で発見された溶接欠陥の構造安全性評価などに用いる破壊靱性の評価

② 材料選定や溶接施工法の承認などに用いる破壊靱性の評価

③ 材料開発などのための破壊靱性の比較評価

に依存する。破壊靱性試験を,①や②の目的で行う場合,通常,疲労予亀裂入りの3点曲げ,もしくはコンパクト試験片が用いられる。表1に破壊靱性試験片のタイプとその特徴をまとめる。

鋼多層溶接熱影響部は,材質不均一が著しいので,靱性評価に当たっては試験結果が何を意味するかを試験目的に照らして吟味することが重要である。これまでの多くの実験と研究の結果をもとに,溶接熱影響部の破壊靱性評価上の注意事項をまとめたものが,日本溶接協会規則WES 1109-199511)として公表された。WES 2805-200712)の解説も参考となる。以下に,靱性評価におけるチェックポイントを列記する。

1)溶接継手の作製

試験溶接継手は,実施工条件をなるべく忠実に再現して作製する。試験目的②では,通常K型やレ型開先が用いられるが,その場合でも入熱条件は実施工に合わせる。溶接パスの積層の仕方,熱影響部形状のわかる継手断面のマクロ写真(もしくはスケッチ)を添付するようにする。

2)試験片の選定

試験目的に応じて,試験片が板厚貫通切欠き型か表面切欠き型かを選定する。試験目的①では後者が用いられることが多いが,疲労亀裂形状が必ずしも直線状でないため,試験片表面と内部とで亀裂先端組織が同じでないことがある。試験目的②では通常,板厚貫通切欠き型が用いられ,亀裂が最脆化組織を通るように切欠き位置を選定する。

3)亀裂先端の組織と破壊起点の同定

用いた試験片の疲労予亀裂先端位置,および破壊がどの組織から生じたかを明らかにするために,図3に示すセクショニングを実施する。通常は,疲労予亀裂面を垂直に切断して調べる(a)図の手順を採るが,必要に応じて(b)図の破壊起点を通り破面に垂直な断面の調査も行う。(表面切欠き型試験片ではたとえ亀裂先端が目標組織にあっても,延性亀裂成長などによって破壊がその組織から起きるとは限らないこと13),また,母材と溶接金属の強度差の大きい継手では,亀裂が湾曲成長して目標組織から破壊経路が逸脱することがある14),などのため。)

4)破壊靱性値に及ぼす亀裂前縁の脆化部寸法の影響

溶接熱影響部の破壊靱性値は亀裂先端に存在する脆化部の寸法の影響を受け,脆化部寸法が小さくなると,全体的に破壊靱性値は大きくなる傾向にある(下限靱性への影響はそれほど大きくない)。セクショニングにおいては,亀裂前縁に沿う脆化部寸法を調査するようにする。破壊靱性値の寸法効果の評価には,最弱リンクモデルが有効である15)

5)破壊靱性値に及ぼす強度ミスマッチの影響

母材と溶接金属の強度的ミスマッチが大きい場合には,亀裂先端近傍の変形挙動だけでなく破壊靱性値も影響を受ける。特に,溶接金属の強度が母材強度を上回るオーバーマッチ継手では,溶接熱影響部の塑性変形が強度の高い溶接金属に拘束される結果(塑性拘束),破壊靱性値が見かけ上小さくなることに注意する必要がある16)

6)試験本数

通常は,同一条件で得られた有効な試験データ3個のうちの最低値を材料の破壊靱性値として採用する。破壊靱性値の確率的側面を考慮した評価の仕方はWES 2805-200712)の解説に記されている。

参考文献

1)T.Haze,S.Aihare:IIW Doc.IX―1423―86,(1986)

2)F.Kawabata,K.Amano,M.Toyoda,F.Minami:Proc.10th Int.Conf. OMAE,Vol.3A,p.73,(1991)

3)中尾,大重,野井:溶接学会論文集,第3巻第4号,p.773,(1985)

4)中西,小溝,深田:溶接学会論文集,第4巻第2号,p.447,(1986)

5)K.Uchino,Y.Ohno,S.Aihara et al,:Proc,5th Int.Conf.OMAE,Vol.2,p.373,(1986)

6)M.Toyoda:Fracture Toughness Evaluation of Steel Welds(Review Part II),Osaka University,(1989)

7)堀井:日本鉄鋼協会第128回西山記念技術講座資料,p.39,(1989)

8)K.Arimochi,K.Isaka:Proc.10thInt.Conf.OMAE,Vol.3A,p.213,(1991)

9)岡本:日本鉄鋼協会第141,142回西山記念技術講座資料,p.23,(1992)

10)川端,天野,板倉,南,荊,豊田:日本造船学会論文集,第173号,p.349,(1993)

11)WES 1109―1995:溶接熱影響部CTOD試験方法に関する指針,(社)日本溶接協会,(1995)

12)WES 2805―2007:溶接継手のぜい性破壊発生及び疲労き裂進展に対する欠陥の評価方法,日本溶接協会,(2007)

13)豊田,南:日本造船学会論文集,第169号,p.279,(2007)

14)豊田,南ら:溶接学会論分集,第12巻第4号,p.568,(1994)

15)F.Minami,M.Toyoda,K.Satoh:Trans.Japan Welding Society,Vol.19,No.2,p.125,(1988)

16)F.Minami,M.Toyodaetal:溶接学会論文集,第13巻第4号,508,(1995)

〈南 二三吉 / 2012年改訂[規格]〉

このQ&Aの分類

接合部の靭性

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低合金の多層盛溶接材質:鉄鋼

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