- 接合・溶接技術Q&A / Q05-01-40
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Q中炭素鋼S35CおよびS45C鋼について,CO2ガスシールドアーク溶接のすみ肉溶接における予熱の考え方と予熱温度の設定,保持温度,直後熱温度および保持時間の実例を教えて下さい。
機械構造用鋼S35C,S45Cでは,炭素含有量が高く低温割れが発生しやすいため,その防止のため溶接に際して予熱後熱が必要となる。以下に,具体的に施工方法の検討手順を述べる。
まず最初に溶材を選定することになる。突合せ継手のように母材並の強度が必要となる場合は高強度鋼の溶材を使用せざるを得ないが,すみ肉溶接では割れの危険を少しでも軽減する意味では低強度材の適用を検討すべきである。
次に,低温割れ防止のための予熱温度を考える。予熱のみで割れを防止しようとすると,炭素当量が高いために予熱温度は高くなる。低水素系溶接棒による1パスビードy型割れ試験結果の報告例1)からは,S35Cでは200℃程度,S45Cでは275℃程度が必要とされている。また,実施工上の基本となる予熱・パス間温度は炭素当量0.5で150℃,0.6で200℃,0.7で250℃と,炭素当量が0.1増加するごとに50℃予熱温度を高くすることが,おおまかな目安とされている2)。表1に,予熱パス間温度および溶接材料の一例をまとめて示す2)。
直後熱を併用する場合の,予熱間温度の下限および直後熱の保持温度・保持時間の目安は図1のように示されている1)。すなわち,S35Cでは予熱パス間温度130℃以上→直後熱約200℃1時間,S45Cでは予熱層間温度150℃以上→直後熱約300℃1時間と試算される。なお,直後熱温度をより高温にすれば,保持時間は短くてすむ。この予後熱条件は,拘束の厳しい突合せ継手の1パス溶接によるルート割れに対するもので,かつ,溶接金属中の拡散性水素量が2m/100g(JISグリセリン法)程度の場合の結果である。したがって,拡散性水素量が少ないCO2溶接の場合では,予後熱温度にするとそれぞれ約20℃程度下げることが可能である。また,多層溶接では次パスの溶接により拡散性水素の放出が促進されるため,さらに予後熱条件を低減できる。その程度については個別に検討し慎重に決定する必要がある。なお,直後熱終了後の冷却に際しては,冷却時の熱応力による割れが起こらないように除冷する配慮が必要である。
中,高炭素鋼のCO2溶接施工の注意として,溶接条件によっては母材溶込みが過大となり,母材炭素の希釈による高温割れの危険性が挙げられる。対策としては,母材溶込みを最小にするために低電流・低電圧の溶接条件とするとよい。また,母材希釈が大きい1,2層は被覆アーク溶接(もちろん低水素系)とし,残層をCO2溶接で行うなどの工夫も必要である。
参考文献
1)粂ほか:溶接学会論文集,Vol.2,p.39,(1984)2)溶接技術,Vol.47,No.1,p.135(1999)
〈結城 正弘〉