- 接合・溶接技術Q&A / Q05-02-52
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Qステンレス鋼溶接部で生じる腐食について説明して下さい。また,ウェルドティケイおよびナイフラインアタックとはどのような現象ですか。
(1) ステンレス鋼溶接部腐食の分類
ステンレス鋼溶接部で生じる腐食は,発生箇所から図11)に示すごとく,(a)母材腐食,(b)溶接金属腐食,(c)溶接熱影響部腐食(ボンドより離れたHAZ),(d)溶接熱影響部腐食(ボンド近傍/両側),(e)溶接熱影響部腐食(ボンド近傍/片側),に分類される。
(a)のタイプは溶接金属が母材に比べて,耐食性がオーバーマッチングである場合に生じる腐食形態で,例えば,炭素鋼の溶接にオーステナイト系ステンレス鋼溶接棒を用いた場合にその例が見られる。
(b)のタイプは,耐食性の低い溶接棒を用いた場合,もしくは共金系溶加棒を用いた場合でも溶接金属の耐食性が粒界腐食および孔食などに対する耐食性が劣化する場合に生じる。
(c)および(d)のタイプの腐食は何らかの理由により,溶接熱影響部の耐食性が母材に比べて劣化した場合に生じる。
(e)のタイプの腐食は異材溶接を行った場合にみられるもので,両金属の電気化学的差に起因して,電気化学的に卑な金属が選択的にアタックされるガルガニック腐食によるものである。
(2) ウェルドディケイ
ウェルドディケイは,比較的炭素量の高いSUS304や316などの鋼種において問題となる溶接熱影響部腐食であり,その発生領域は溶接過程でピーク温度が約923~1173Kとなる溶接金属に平行な幅が約3~8mmの熱影響部である。
ウェルドディケイの原因は,溶接過程におけるCr炭化物の粒界析出による粒界近傍のCr欠乏層形成に起因した鋭敏化である。HAZの高温に加熱される領域が鋭敏化されないのは,冷却過程で鋭敏化温度域を通過する時間が短いためである。また,低温側では,ピーク温度が鋭敏化温度域に到達しないか,もしくは鋭敏化温度域での保持時間が短いことにある。
HAZの鋭敏化の程度は鋼中のC量,溶接入熱,溶接パス数の増加に伴い,激しくなると同時に鋭敏化される領域も拡大する。
この現象の対策としては,①C量を0.03%以下に抑えた低C鋼種の使用,②溶接入熱の制限,③NbもしくはTi添加によりCの安定化を図った安定形鋼種の使用,④溶接後1327~1373Kでの溶体化処理などが有効である。
(3)ナイフラインアタック
ナイフラインアタックは,SUS321や347などのTiもしくはNbなどを添加した安定形γ系ステンレス鋼の溶接部において,ボンド部に沿った極く幅の狭いHAZが腐食される溶接熱影響部腐食の一形態である。
この現象は,HAZが多層溶接時の後続パスの熱サイクルや使用中の熱履歴により,鋭敏化温度域に加熱された場合に生じるステンレス鋼溶接部に特異な粒界腐食の1つである。
この現象の原因は,溶接過程でボンド近傍のHAZがTiCもしくはNb(C,N)の固溶により,いわゆる脱安定化され,その後の鋭敏化温度域の熱履歴をうけることにより,Cr炭化物が粒界に析出し鋭敏化されるためである2)。
また,SUS321ではHAZにδフェライトが析出し,この相中にCr炭化物が多量に析出することにより耐食性が低下し,粒界腐食を加速するため,δフェライトの析出しないSUS347に比べて高い感受性を示す。
ナイフラインアタックの対策としては,溶接後1153K付近で2hr保持を行う安定化熱処理が有効である。また,希土類元素の添加により,ナイフラインアタック現象が改善されることが報告されている。
参考文献
1)西本和俊:ステンレス鋼溶接の基礎,溶接技術,Vol.46,No.1,(1998)2)西本,小川:ステンレス鋼溶接部の耐食性(Ⅰ),溶接学会誌,68-3,pp.6-15,(1999)
〈西本 和俊〉