接合・溶接技術Q&A / Q06-02-05

Q鋳鉄の溶接で,Ni系溶接棒を使用するのはなぜですか。

ニッケル系溶接棒は,

(1) 溶接部は鋳鉄とは全く異なる色調で,光沢があり,発銹しないため新品の補修には使用できない場合がある。

(2) 主成分がニッケルのため高価である。

といった不利な点もあるが,次のような鋳鉄の溶接に欠かせない利点がある。

(1) ニッケルは硬度が低く伸び靱性がよい。

(2) ニッケルは炭素と結合しないので,溶込みによる鋳鉄母材からの炭素の巻上げを生じても溶着金属は硬化しない。

(3) ニッケルは炭素と結合せず,黒鉛化を促進する元素であるので,鋳鉄母材から溶接金属側への炭素の拡散を防止する効果があるため,融合部の炭素量減少に起因する白銑化傾向を迎えることができる。

鋳鉄の溶接の難点は,白銑やマルテンサイトなどの生成により,熱影響部(2番部)が硬化し脆くなることである。ニッケル系溶接棒はこれらの不具合を改善することができ,特に純ニッケル系溶接棒はニッケル系溶接棒の中でも,溶接金属が最も軟らかく融合部の白銑化も一番防止できる溶接材料である。

また,鉄ニッケル系溶接棒は,純ニッケル系に比べて強度がやや高く,脆い鋳鉄の溶接には不利のようであるが,溶接金属の膨張係数が非常に小さくなることが利点となっている。図1は鉄とニッケルの比率に対する膨張係数を示したものであるが,ニッケル35%付近で膨張係数が最も小さくなっている。鉄ニッケル系溶接棒はこの特徴を利用し,鋳鉄母材の希釈を受けることで低膨張係数側へ成分移行させて,収縮量を少なくして残留応力を軽減している。

これらニッケル系溶接棒の特徴は,冷却速度が速くなっても溶接部の硬化が少なくできることが最大の利点である。このようにニッケル系溶接棒は,予熱不要もしくは予熱をしても低温予熱(200℃程度)の冷間溶接が可能なことから,数多くの鋳鉄部品の補修溶接に利用されている。

参考文献

1)(社)溶接学会編:溶接便覧,丸善(株),(昭和47年4月)

2)(社)日本鉄鋼協会編:鉄鋼便覧,丸善(株),(昭和46年3月)

3)溶接シリーズ編集委員会監修:現代溶接技術大系,産報出版(株),(昭和55年1月)

4)佐藤知雄編:鉄鋼の顕微鏡写真と解説,丸善(株),(昭和38年7月)

5)(社)日本熱処理技術協会:鋳物と非鉄金属材料の熱処理,(株)日刊工業新聞社,(昭和45年6月)

〈伊葉  正〉

このQ&Aの分類

鋳鉄

このQ&Aのキーワード

Ni系溶接棒

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