- 接合・溶接技術Q&A / Q06-02-06
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Q鋳鋼の溶接で発生する欠陥とその対策を教えて下さい。
鋳鋼の溶接で溶接部に発生する溶接欠陥で,致命的な事故につながることの多い欠陥には,高温割れと低温割れがある。
(1)高温割れ
図1のように溶接ビードと平行に発生する縦割れ,ビードの波形に直角に発生する弧状割れがある。発生時期は鋳鋼の冷却過程で凝固温度域,もしくは凝固温度直下で発生する。
<原因>
① 不純物
鋳鋼中に含まれる不純物P(燐)およびS(硫黄)がFe(鉄)と低融点化合物Fe3P(燐化鉄)やFeS(硫化鉄)をつくるためである。これら低融点化合物は,鋳鋼の最終凝固段階で結晶粒界に集まり,粒界の強度を低下させるため割れの原因となる。
② 溶接条件
高電流で高速溶接の場合,深溶込みになり溶接拘束応力のために割れる。
<対策>
① Mn含有量の多い溶接材料の使用
MnはSと結びついてMnS(硫化マンガン)となり,粒状で結晶粒内に分散し,結晶粒界に集まるFeSの生成を阻止する。
② 電流を下げる
深い溶込みビードを避けることも一対策であり,電流および溶接速度を下げて凹型ビードを凸型ビードにすることも効果がある。
(2)低温割れ
比較的低い温度で発生する割れで,ビード下割れ,止端割れなどがある。発生場所は図2に示すとおりである。
<原因>
炭素当量が高い鋼材の熱影響部に発生する。その要因を次に挙げる。
① 熱影響部が硬化(マルテンサイトの生成)し,その硬化部の延性低下
② 溶接による拘束応力の大きさ
③ 拡散性水素の量
これら要因が相互に作用し低温割れを起こす。割れは水素源との関連が大きく,溶接棒の水分および開先の汚れ,油脂などが水素源となる。水素源は溶接熱で分解し,水素原子(H)として溶融金属中に吸収溶解される。溶接金属の凝固過程で水素は大気中に放出されるが,多くの水素は溶接金属中に取り残されて,結晶格子歪の大きい硬化層(マルテンサイト組織)中に集積し,熱影響部を脆化させる。
<対策>
① 開先内を清浄にする(錆,油脂他の除去)。
② 低水素系溶接棒の使用
③ 溶接棒の使用前再乾燥の実施
④ 予熱をする,もしくは予熱温度を高くする。(熱影響部の硬化防止,水素の外部へ放出を助ける)
①~③項は水素源の除去あるいは低減であり,④項は熱影響部の硬化並びに溶接応力の軽減,および拡散性水素の外部(大気中)への放出を助ける。
参考文献
1)(社)溶接学会編:溶接便覧,丸善(株),(昭和47年4月)2)(社)日本鉄鋼協会編:鉄鋼便覧,丸善(株),(昭和46年3月)
3)溶接シリーズ編集委員会監修:現代溶接技術大系,産報出版(株),(昭和55年1月)
4)佐藤知雄編:鉄鋼の顕微鏡写真と解説,丸善(株),(昭和38年7月)
5)(社)日本熱処理技術協会:鋳物と非鉄金属材料の熱処理,(株)日刊工業新聞社,(昭和45年6月)
〈伊葉 正〉