- 接合・溶接技術Q&A / Q06-02-07
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Q鋳鋼と圧延鋼はどこが違うのですか。
鋳鋼と圧延鋼とは,そもそも使用目的が異なり圧延鋼は板,棒,形,帯,線および鋼管などに圧延され,切削,曲げ,絞りなどの加工並びに溶接によって製品や部品が造られている。このように圧延鋼は,溶接性を始め機械的性質を重視して規格が造られている。しかし,鋳鋼は製品に近い形状に鋳造し,切削加工を加えて製品にする。もしくは切削加工を省いて促成品にするなど,元来溶接はしないものとして扱われてきた。そのため成分規格においても溶接性を余り考慮されていない傾向にある。例えば,P(燐),S(硫黄)などの不純物の上限規格値は鋳鋼の方が高い。また,製造方法の違いから成分の偏析が発生しやすく,特に厚さの大きい大物鋳鋼品では,その傾向が大である。表1は鋳鋼のC偏析を調べたものであるが,凝固が遅れる内部に行くに従ってC値が上昇している。このことは他の成分,特に不純物であるP,Sも同様の傾向を示す事を示唆している。
この他,形状面では複雑かつ厚さも厚いところや薄いところの差も大きいものがあり,鋳造時の収縮による残留内部応力も大きい。その上,巣,ノロ入り,砂かみや割れといった欠陥を含んでいる事もある。
したがって鋳鋼の溶接を行う場合には,圧延鋼と異なる鋳鋼の特異性を十分把握した上で作業に掛かる事が大切である。
参考文献
1)(社)日本金属学会:金属データブック,丸善(株),p.293,(昭和49年7月)2)(社)溶接学会編:溶接便覧,丸善(株),(昭和47年4月)
3)(社)日本鉄鋼協会編:鉄鋼便覧,丸善(株),(昭和46年3月)
4)溶接シリーズ編集委員会監修:現代溶接技術大系,産報出版(株),(昭和55年1月)
5)佐藤知雄編:鉄鋼の顕微鏡写真と解説,丸善(株),(昭和38年7月)
6)(社)日本熱処理技術協会:鋳物と非鉄金属材料の熱処理,(株)日刊工業新聞社,(昭和45年6月)
〈伊葉 正〉