- 接合・溶接技術Q&A / Q06-06-03
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Qニッケル合金の中には,ハステロイ,モネル,インコネル,インコロイなどと呼ばれているものがありますが,図面等に,この呼び名で記載してもよいでしょうか。
ニッケル合金は言葉の通りニッケルを主成分とし,種々の目的で合金成分を添加したものである。例えば耐食性の向上のため,
① 酸化性雰囲気に対する耐食性を向上させるため,Cr,Taなどを添加する。
② 還元性雰囲気に対する耐食性を向上させるため,Mo,Cuなどを添加する。
③ 塩化物に対する耐食性(耐孔食性)を向上させるため,Cr,Moを添加する。
などがよく知られている。
このようにして開発・改良された合金の主な物はJIS(H 4551,G 4902等)などにも規格化されているが,製造メーカ独自の商標で呼ばれることがある。
質問にあるニッケル合金は,これらの代表的なもので比較的よく知られているが,そのいずれも表1に示すように本来は製造メーカの商標である。また,その内容(合金成分)についても種々のものがある。商標の方がむしろ分かりやすい面もあるが,その取扱いについては注意が必要である。
(1) インコネル:Special Metals Internationalの商標である。基本成分はNi-Cr(-Fe)系であり,600,690,625などが知られている。ただし625はMoが添加されておりハステロイ系に近い。なお,耐食用途の他に耐熱用途で用いられるものもあり,718,750などの番号が知られている。これらはAl,Tiなどを多く含み析出硬化特性があることから,一般に溶接性が悪い。
(2) インコロイ:Special Metals Internationalの商標である。基本成分はNi-Cr-Fe系であり,800,825などが知られている。なお,825はカーペンター20系に比較的近い成分となっている。
(3) ハステロイ:Haynes International,Inc.の商標である。ハステロイ合金には,①Ni-Mo系のB(B-2),②Ni-Cr-Mo系のC(C-276,C-22など),その他に耐食合金としてのG系や耐熱合金に分類されるN,S,W,Xなど種々のものが知られている。このように一概にハステロイと言ってもその内容はさまざまである。
(4) モネル:Special Metals Internationalの商標である。NiとCuの合金で中性からアルカリ性の腐食環境において耐食性を示す。モネル400とモネルK-500が知られており,後者は析出硬化によって高い強度が得られる。
なお,ニッケル合金は以上の他に種々のメーカが多種多様な合金を開発・実用化しているが,大きくは耐食性目的と耐熱性目的に分類される。一般に耐食目的の合金の場合には,比較的溶接性が優れているが,耐熱性を目的としている合金の場合には析出硬化を目的に,Al,Tiなどが多く含まれており溶接性が悪いので注意を要する。
〈夏目 松吾 / 2012年改訂[字句修正]〉