- 接合・溶接技術Q&A / Q06-06-04
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Qニッケル合金は,オーステナイト系ステンレス鋼に比べて溶接が難しいと言われますが,どのような理由によるのでしょうか。また,材料によって差があるのでしょうか。
ニッケル合金はオーステナイト系ステンレス鋼と同様の凝固組織(FCC構造)をしており,冷却過程で組織変態を生じない。このため溶接を行うと高温割れ(凝固割れ)を生じやすいことが知られている。
オーステナイト系ステンレス鋼の場合には高温割れ防止のため凝固組織の中に少量のフェライトを含有している。しかしながらニッケル合金の場合にはこのような操作ができないため,高温割れが生じやすい傾向にある。
ニッケル合金にはニッケル,ニッケル銅合金(モネル),ニッケルクロム合金(インコネル),ニッケルモリブデン合金(ハステロイB)等の他種々の合金が知られているが,その種類によっても溶接性に大きな違いがある。
また耐食用途と耐熱用途に分けられるが,前記材料は主に耐食用途で用いられることが多く,溶接性も比較的優れている部類に属する。これに対し耐熱用途,例えばジェットエンジンや高温タービンなどに用いられるニッケル合金は溶接性の劣るものが多い。前者は固溶強化型の合金がほとんどであり,後者はAl,Ti,Nbなどの成分を多く含み,これらの金属間化合物(Ni3(Al,Ti,Nb))を析出させることによって高温強度を確保する析出強化型合金が多い。この析出強化型の合金の場合には図1に示すように,特定の温度域で延性が大きく低下する傾向にあり,高温割れや再熱割れを生じやすい。
ところでニッケル合金溶接材料の多くはブローホールや高温割れ防止のため,Al,Ti等を比較的多く含んでおり,場合によってはこれら元素が原因となる延性低下が生じることがある。このため高温割れ防止の点から溶接金属中のP,Sをできる限り低減し,脱酸剤としてのAl,Tiの量を適量に制限している。さらにモネルメタルでは高温割れ発生原因の一つが高温での延性低下にあるため,Al,Tiの量を低減してNbに置き換え,高温割れ感受性を低減している例などもある。
なお析出強化型合金は一般に溶接が困難な物が多いことから,共金系の溶接材料はほとんど用いられず,溶接性を重視して選択されるのが一般的である。
ニッケル合金の溶接では高温割れを生じやすいことから,溶接入熱を抑え,予熱・パス間温度管理も厳しく行う必要がある。また溶接材料中にブローホール防止のためAl,Tiなどを適量添加している。これらの脱酸元素を有効に利用するため,溶接方法とし純Arを用いたティグ溶接やミグ溶接で行われることが多い。
〈夏目 松吾〉