- 接合・溶接技術Q&A / Q06-08-08
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Qジルコニウム(Zr)を溶接したいのですが,どのような溶接方法を採用したらよいのでしょうか。また,溶接での問題点を教えて下さい。
工業材料としてのZrは微量のSn,Fe,Ni,Crなどの元素を添加したZr合金として用いられているが,わが国で主として使用されている材料は,ジルカロイ-2およびジルカロイ-4(Zry-2,-4:いずれも通称,JIS規格1)参照)である。
これらの合金は,高温高圧水中で十分な強度と高耐蝕性を有し,加えて中性子吸収断面積が非常に小さい特性を有していることから,主に原子炉用材料に用いられている。このような目的に使用される本金属の溶接においては,材料の持つ本来の特性が損なわれない溶接部を得ることが重要である。
Zrは非常に活性な金属で,溶融状態および高温度では空気成分のN2およびO2との親和性が強く,Zry-2やZry-4も同様である。したがって,これらの合金の溶接は大気と遮断した雰囲気中で行う必要があり,原子炉材料など特に高品質の要求される溶接では溶接雰囲気管理が一層重要となる2~7)。
このような事から,溶接には溶接チェンバーを用い,被溶接材全体あるいはその一部を入れて,シールし,不活性ガス(ArやHe)置換した後,溶接が行われている。図1に,その1例として,TIG溶接法を用いたBWR用原子燃料被覆管(Zry-2)の溶接装置システム図を示す2)。
このような溶接装置を用い,不活性ガス雰囲気中で溶接を行っても,雰囲気中に空気成分が存在すると,溶接時に溶接金属および熱影響部にNおよびOが吸収され,溶接部の特性を低下する2~7)。図2および図3はZry-2管溶接時の溶接雰囲気中のN2およびO2分圧と溶接金属中のNおよびO量との関係を示すが,いずれもPN212およびP0212に比例して増加している4)。したがって,溶接条件管理の1項目として,溶接雰囲気中のN2またはO2分圧モニタリングを加えることも必要である。
Zr合金の溶接はTIG法によるのが一般的であるが,原子力の分野ではYAGおよびCO2レーザ溶接法も検討され,一部にはすでに採用されている8~10)。また,抵抗溶接や電子ビーム溶接法も一部検討された経緯がある2)が,国内での実用化についての報告はない。いずれの溶接方法にしても,前述した通り,溶接部にNおよびOを吸収させないことが本金属の溶接での最重要課題である。



参考文献
1)JIS H 4751,(1990)2)小室:溶接技術,48巻,8号,(1993.8)
3)小室ほか:溶接学会論文集,Vol.11,No.4,(1993.11)
4)小室ほか:溶接学会論文集,Vol.12,No.2,(1994.5)
5)小室ほか:溶接学会論文集,Vol.12,No.3,(1994.8)
6)小室ほか:溶接学会論文集,Vol.13,No.4,(1995.11)
7)小室ほか:溶接学会論文集,Vol.14,No.1,(1996.2)
8)黒沢ほか:溶接学会全国大会講演概要,No.61,(1997)
9)黒沢ほか:溶接学会全国大会講演概要,No.62,(1998)
10)黒沢ほか:溶接学会全国大会講演概要,No.63,(1998)
〈小室孝次郎〉