接合・溶接技術Q&A / Q07-09-09

Q人手で行っていた作業をロボットに置き換える場合に,留意する点は何でしょうか。

溶接作業における人間とロボットの違いをよく認識することから始めることが必要である。表1に違いの主な比較を示す。項目は一般的に言われているものを列挙した。表1のロボット欄の×~△項目について簡単に説明する。

① 環境変化追随力

ロボットの環境変化追随力は,センシング技術である。アークセンサやタッチセンサがあり,その技術進歩は目覚ましいが,人間の視覚,触覚に比べるとまだその差は大きい。

② 判断力

ロボットの判断方法は,予め決められた数値に対して高低,遠近,狭い広い等,少ない項目,かつ単純化した項目で判断している。そのため,数値を決めた前提条件が崩れると,的確な判断ができない。

一方,人間は過去の学習により判断しており,前提条件が崩れても,その学習があれば対応できるので幅広い判断ができる。

③ 融通性

ロボットは「こうしなさい」と命じられると,正確に実施する。しかも,予め指示されている場合を除き,途中でその行為を変更することはない。

一方,人間は命じられた事を守らない場合もある。しかし,過去の学習経験から,このぐらいなら変更しても「問題ない」あるいは,「この方がよい」との判断をする融通性がある。

<留意点例>

以上の人間とロボットの比較から,人手からロボット溶接に置き換える場合の留意点で,代表的な例を以下に示す。

(1) 被溶接物準備における留意点例

●開先ギャップ幅,開先角度,ルート高さ等を,ロボットメーカの指定する精度範囲に保持すること(精度範囲を越えた場合の追随機能はロボットにはない)。

●裏当て材を用いる場合は,その密着度を維持すること(隙間などに対する追随機能はないので,溶落などが発生する場合がある)。

●開先内清浄度をより向上させること。

●開先内の仮付け溶接の大きさ,長さを指定通りに行うこと。

このように,溶接前被溶接物の仮組みの精度などを所定の範囲に入れることがロボット溶接成功のポイントで,前処理工程設備の充実が必要である。

(2) ロボット側の準備における留意点例(判断力)

ワイヤ送給不良,シールドガス不足などがおきると連続した溶接欠陥を発生させる。人手で溶接する場合は,アーク状態でこれらのことが判断でき,アーク停止などの処置をして欠陥を最小限におさめられるが,ロボットの場合はこれらの判断ができないので連続した欠陥になりやすい。日常点検を確実に実施することが必要である。

(3) 環境上の留意点例

ロボット溶接では,人手に比べて「風」対策の強化が必要である。人手があれば,狭い開先内溶接においてもトーチ先端を開先に接触させながらもワイヤ突出し長さを適正に維持して溶接できるが(融通性),ロボット溶接ではトーチ先端が被溶接物に接触するとトーチの破損を防止するための機能によりロボットが停止する。このような場合,ロボット溶接ではワイヤ突出し長さを長めにセットすることになり,「風」による(シールド不足)気孔発生を起こしやすい。

〈竹内 直記〉

このQ&Aの分類

溶接ロボット

このQ&Aのキーワード

人手からロボットへの変更

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